意気揚々と自販機へ向かういなりとちょこ、そして心配で一緒についてくる俺。
七志「飲み物は自分で選びたいからな」
と断りを入れつつ、二人を見守ることにする。

公園に設置された見た感じ新しめの自販機。おそらくは最近になって交換された新人だろう。
近年当たり前になりつつある電子マネーも使えるタイプのやつだ。

対するいなり、どこからともかく100円玉を2枚取り出し、自販機に投入。
そこまでは良かったが、そこで手が止まる。

・・・どうやらお金をいれることに注力して何を買うか決めていなかったらしい。

いなり「あ・・・ちょこちゃん、何がいいですか?」


そこでちょこに助けを求めるんじゃない。
当然ながらちょこは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。犬だけど。

七志「あっ・・・その一番上のお茶とかどうだ!?」

いなり「は、はい!この右のやつですねっ!!」

たまらず助け船を出す俺の顔を振り返るいなりの顔からは安堵の色が見える。

いなり「たぁあっ!!」

とっさのことでいなりの身長を考慮していなかったが、最上段のボタンを押すために背伸び。
傾いて落ちそうになった帽子を押さえつつ勢いよくボタンを押すと、
ガコンという音とともに自販機がお茶を投げ渡してきた。

続いておつりがジャラジャラと崩れ落ちてくる。
もちろんちょこはそのたびに、まるで化け物を見るような顔でいなりの後ろに隠れるのだが。


いなり「これがジハンキの使い方ですよ、ちょこちゃん!」

今までに見たこともないようなドヤ顔をちょこに向けるいなり。

一方のちょこは、初めて見るであろうにぎやかで大きな箱、妖怪ジハン鬼に終始おびえっぱなしだ。



七志「ありがと、いなり。
   ・・・さっき帽子落ちそうだったぞ、気をつけて」

いなり「ご忠告ありがとうございます、ご心配にはおよびませ・・・きゃっ」

言ってるそばからつむじ風が吹き、いなりがとっさにスカートを抑える。

いなりの「あっ!」という言葉とともに風がその帽子を奪い取る。
とっさに手を伸ばそうとした、その時だった。




ぼすっ!!



突然背中、そして頭にボールが当たったような衝撃が走る。
七志「いっ・・・て・・・」

俺の目に映ったいなりは無事に帽子を取り返している。
いや、取り返したというか、取り返してもらったというか。

いなり「えっ・・・あの、何が起こって・・・るんでしょう?」






どこからともなく表れた白猫がいなりの頭の帽子の上にのしかかっている。
のしかかっている、というか・・・この状況から察するに。

七志「とってくれた・・・のか?その猫が?」



いつの間にか後ろに隠れているちょこが、俺の横から猫のほうをうかがっている。
今日はいろんなところでビクッとしているちょこだが、今回ばかりは俺もたぶん彼女と同じ顔をしたんだろう。

白猫「あー・・・まったくお前ら、あぶなっかしくて見てらんないなぁ!」

風に奪われた帽子をとってくれた親切な白猫は、いなりの頭の上に乗ったまま言葉を話した。
俺の聞き間違いでなければ・・・なのだが。

いなり「え・・・、えっ?どこから・・・いま、誰が・・・?」






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