週末である。

仕事は公休、特に予定もなし。
まごうことなき「休日」である。

・・・と、こう。
わざわざ文字に起こしてみるとありがたみが増すな。休日ってやつは。

今日はいなりの提案に乗る形で三人でお出かけだ。
お出かけといっても近所をぶらぶらしてるだけなんだけども。

暑さ寒さも彼岸から・・・という言葉があるらしいが
最近はそうでもないらしい。
街路樹の葉にはちらほら紅色が混ざり始めているもののまだまだ寒いとはいいがたい。
時折吹く風もまだまだ温かさを残し、春が戻ってきたような感覚にさせてくれる。

過ごしやすい気温が続くのはヒト社会では必ずしも悪いことではないことは
この二人にもよく理解できていることだった。

いなりは例のごとくフワフワした服装に身を包み、頭にはいつもの帽子を乗せている。
ちょこも普段とは違う洋服に耳付きのニット帽をかぶり、後ろ髪をリボンで結んでいる。
そういえば先日リクといなりで服のカタログを読み漁っていたっけ。
腰回りに装飾が多いのはしっぽがこぼれた時のためだろうか?

世話を焼くいなりの姿も、手を引かれて歩くちょこの姿もなんともかわいらしい。
保護欲を掻き立てられるというのはこういうことなのだろうか。







公園の入り口をくぐる。
ここは神社に併設されたもので、新年の初詣をはじめ
季節には祭りの会場に、普段は奥様方とお子様方の憩いの場所になっている。

公園の隅には簡単な遊具が備え付けられており、まさに今子供たちがジャングルジムを踏破しているところだ。

この神社、実はあの夜いなりと出会った道の真横の「あの神社」なのだが
本人は特に何も言わないあたり気づいていないのだろうか。

いなり「あの・・・だんなさま。・・・聞いてもいいですか?」


公園の隅にあるベンチに腰かけたいなりが俺の目を見る。
「ん?」と返事をすると、彼女は首をかしげつつ続けた。

いなり「あ、いえ。ただ単純に興味があるんです。
    その・・・だんなさまのご家族のこと、聞いたことなかったなって」


そういえば前にいなりが言っていた。
彼女たちは自分の家族のことをよく覚えていないらしい。

狐の群れの中で暮らしていたことは覚えているが、ヒトの姿で生活するうちに
意識もヒトのそれへと変化していった・・・と聞いたな。
今のいなりにとって、狐は狐、自分は自分という区切りがあるのだろうか。

七志「そうだな・・・そういえば話してなかったっけ」


別に家族と確執があるとか、両親がいないとか、そういう特別な理由があるわけではないけど
この機会にいなりに話しておくか、いろいろと。

七志「今はほかの町で暮らしてるけど元気だよ、親父とおふくろと、弟」


親父の仕事の都合で県外に引っ越した俺たち家族。
今では俺だけがこの生まれ育った町で一人暮らしをしている。
まさか俺も、親父と同じく『仕事の都合』なんて言葉を使うことになるとはな。

七志「まあ、たまに連絡はとってるけど・・・もう何年も顔を見てないな」


そういえば祖母が亡くなって以来それっきり・・・だな。

いなり「いつかはご挨拶をしないといけませんからね。
    私も・・・ちょこちゃんも」


そうつぶやくと、周りを挙動不審ぎみに見回すちょこの頭をぽんぽん、と撫でる。
紹介はしなきゃだが、どう紹介すればいいんだろうか・・・

七志「あー、あと、実家にいたころは犬と猫がいたよ。・・・どっちももういないけど」


犬を飼っていた、という言葉に反応するちょこ。
犬とはいっても全然違ったな。大きさも、性格も。そもそもオスだったし。





気づけば公園の家族連れたちもまばらになってきた。
ずっと話していたせいで喉が渇いてきたな。

いなり「あ、それでしたら私が!
    ジハンキっていうアレで!」


目をらんらんと輝かせてジハン・・・自販機をにらみつけるいなり。
この前使い方を教えてからずっと機会をうかがっていたのだろうか。

・・・心配なので俺も一緒に行こう。





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