現在、夜の19時ごろ、いつもの帰り道。
見慣れた住宅街の家の窓には明かりがつき、家族だんらんの雰囲気を感じる。
今日も夜には綺麗な月が出ている。
ほんの数か月前まではどこか物寂しさを感じていたこの光景だが
今ではそうも感じなくなったのは、家に帰ったときに誰かがいるという安心感からだろうか。
湿った土と草のにおいとともに田舎道を進むと、
切れかかって点滅する街灯に照らされた我が家・・・というか
俺が借りているアパートが現れる。
数か月前は癖で毎度取り出していた鍵を鞄にしまったまま、俺はドアノブをつかむ。
ガチャ
七志「ただいまー」
いなり「おかえりなさい、だんなさま」
いなりがエプロンを外しながら
醤油とみりんのまざったような香りとともに俺を出迎えてくれる。
いなり「ご飯の支度はできてますよ」
七志「・・・うん、ありがと」
七志「お、来てたんだリク」
靴を脱いで玄関を上がると、最近もはや聞き覚えのある声。
リク「やあ人の子よ、邪魔しておるぞ」
今日はパーカーのリクが絵本を開いて眺めている。
リク「近くを通ったついでに犬の子の様子を見に来たのだが
夕飯を作りすぎたと聞いてのう。ご相伴にあずかることにしたのだ」
俺のリクに対する態度がだいぶ砕けているのが物語っている通り
リクは自称した『死神』という肩書に似合わず、割としょっちゅう顔を出す。
あの登場と退場するキャラってのはだいたい要所にしか出て来ないんじゃなかろうか。
リク「あの犬の子め。さすがに人化した動物なだけあって吸収が良いらしい。
その辺の本はもう読んでしまったらしいな」
そういいつつ絵本を閉じ、奥のふすまのほうへ視線を向ける。
リクの視線の先にはくだんの「犬の子」がふすまの陰から俺に目を向けている。
あの日から早くも1週間がたとうとしているが、いまだに俺にはそこまで慣れてくれないな。
七志「ただいま。ちょこ」
ちょこ「あ・・・あの・・・・・・・
おかえり・・・なさい・・・」
俺の声に一瞬びくっとしつつも、彼女はふすまから顔をのぞかせ
まさに「消え入りそうな声」の返事を俺に返してくれた。
前回に引き続き、そこまで考えてつけた名前でもないんだが・・・
今回も本人が気に入ってくれてるなら、それでいいかな・・・
いなり「・・・ふふ。思い出しますね、その顔。
私にこの名前をくれた時のこと」
いま俺はどんな顔をしてるんだろうか。
少なくとも、数か月前にはしていなかった顔なんだろうけど。
第4話:終わり
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つづく、その前に。
ほぼ同じころ、住宅地の屋根の上に、ひとつの白い影があった。
・・・正しくは「いた」というべきそれは、屋根を飛びうつって移動している。
白い影は人の姿になり、物憂げに空を見上げている・・・
第4話:終わり
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