ほどよい日差しと暖かい空気、まさに散歩日和といった天気。
「彼女」は町の様子を観察しつつ、散歩を楽しんでいた。

ただの狐だった時からヒトの暮らしには興味があったが
実際にヒトの目線で町を見回すと新たな発見ばかりだ。

神社を越えると思い出深い道に差し掛かる。

もうひと月前の出来事だが、この道を通るたびに昨日のように思い出す。
あの夜にあの人と出会った、あの道だ。


彼女の名は
「あの夜」をきっかけに人の姿を得た狐である。

普段頭の上に生えた狐耳を帽子で隠しているため
一見しただけでは人間と見分けはつかないだろう。


(シンゴウキというのは何度見ても不思議なものです・・・)


横断歩道で信号を眺めるは周囲には信号待ちにしか見えない。
このように、彼女の行動は偶然にもことごとく人間の世界に溶け込んで見えるのだ。

神社の横道を抜け、十字路を右に。
住宅街の用水路の側道を進んで、「こうそくどうろ」の下のトンネルをくぐる。

距離にして10数メートルと長くないのだが、ここは天気関係なくじめっとして薄暗い。
トンネルの周辺や道の隅にはポイ捨てされたごみがちらほら。
思えば自分の住んでいた山にもたびたび見られた光景だ。


トンネルを抜けると、歩道の隅のほうに捨てられている小箱に目が留まる。
「ポイ捨て」のわりにはやけに大きい。

近づいて初めてそれが小箱というより、ダンボール箱であること
そして何かが書かれていることがわかる。

すでに日常生活に支障のないレベルの読み書きができるようになっていた
すぐにそれが「文字」であることに気付き、さっそく読んでみることにした。




「ひろってください・・・?」


主語の抜けたこの文章を疑問に思いつつ、しゃがんで箱を覗いてみると
中にある物・・・正確には「いる」者と目があった。

「まあ・・・!」







窓の外は夕暮れ。
昼のあたたかな空気は徐々に夜のひやっとした空気に変わっていき、
オレンジ色に染まった町が不思議とノスタルジックな気持ちにさせてくれる。

仕事から帰り、スーツを脱いで部屋着に着替える。

は最近、帽子という外出の手段を得たことで
日中に散歩がてら、人間の世界を観察していることが多いらしい。
今日は遠出をしたのか、珍しくまだ夕飯の支度の最中だった。


そういえば今回は前の話と違って第三者視点から入っていたが
これからも主人公たるがいない場面はそのように描写するんだろうか。


・・・ん?描写?主人公?何を言ってるんだは。


なんて考えで現実逃避している場合じゃないのだが、
夕食後、の口から出た言葉に、最近マヒしていた感覚が再び刺激される。

「い、犬を飼いたい・・・か。」



子供がペットを欲しがる、というのはよく聞く話だが
狐がペットを欲しがる、というのは初めて聞いた。当たり前だ。
そもそも相手は子供じゃないしな。

話を聞くと「ペットが欲しい」というよりは、「捨て犬を助けてやりたい」という意味が強いらしい。

「そう簡単に言うけど、実際犬を飼うってのは大変なことだぞ。
   食事の面倒や散歩の世話やら、余裕があるか?」


そもそも人化した狐に「現実を考えろ」という時点で非現実的なのだが
はしゅん、とした顔でしばらく無言になった後、「もう少し・・・考えます。」とだけ告げた。


ようやく物置状態から解放された部屋で
やっと敷けるようになった真新しい布団にくるまるの顔は見えない。
頭のいい彼女だ。納得してくれたのだろうか。

・・・たぶん俺だったら、その場の情に負けて拾ってしまっただろうな。
いなりにそうしたように。









翌日。
空はどんより、空気もじっとり。
窓の外を見るとこっちまでどんよりしてくる。


ここしばらく降っていなかったが、今日は久々に雨だ。


じとっとした冷たい空気がなんとなく嫌なものなのだが、
曰く悪いことばかりでもないらしい。
そういえば最後に降ったのは、ちょうどが訪ねてきた、あの日だったか・・・?

せっかくの休日なのに雨とは、家を出るのすらおっくうになる。
やっぱりそろそろ車を買うべきだろうか・・・?

昨日に続いて、再びはこんなことを考えて現実を逃避しているが
いつまでも逃げているわけにもいかないので、目前の「現実」に向き直る。













「・・・その後ろの・・・誰だ?」







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