目を覚ますと、そこは布団の上だった。
今度はしっかりかけ布団をしているのに気づく。

少女「・・・あっ、お気づきになりました?」
件の少女が枕元にかがんでを見つめている。
先ほどの光景が脳裏に浮かび、また気絶しそうになったが、なんとか今回はこらえた。

「改めて説明してもらっていいかな?その・・・狐さん。」
テーブルに対面して座ると、彼女はぽつぽつと語りだした。

昨晩車にはねられた傷により、生死をさまよい、死を目前に控えていたこと。
そしてこのの登場により九死に一生を得たこと。

少女「死に限りなく近い状態になったことで、私に眠る『霊力』が覚醒したのだそうです。
   それで、この変化の術もそのときにさずかったのだとか。」


彼女の説明によるとつまり、死に至った影響で魂が漏れ出したものの
結果死なずにすんだことによりあふれた魂がそのまま定着した、とかなんとか。
正直スピリチュアルすぎて理解できないが、わかったことがひとつ。
あの獣医の腕が確かだった、ということだ。


少女「それで、その・・・助けていただいて、本当に感謝しています。」
そこまで言うと、彼女は急に顔を赤らめて視線を落とす。

少女「私、知りませんでした。男のヒトの方の胸の中とは
   ああも暖かかく、頼もしいものなのですね・・・。」


なにやら甘酸っぱい空気だ。
彼女いない暦と年齢が同一であるこのには感じたことのない空気。
妄想はいろいろと浮かんでしまうが、今は平静を装う。
それに残念ながら、に少女趣味は無い。

少女「それでですね、その。お礼をしに来たのはいいんですが・・・」
狐さんが何やら困った顔で目線をそらす。
少女「その、そもそもお礼とはどうすればいいのでしょうか?」

そこかよ、と思ったが。
確かに人間になりたての狐に、人間の文化を理解しろというのも無理がある。
・・・いや、そもそも人間になりたてってなんだ。
そもそもなんではこんな高速で順応してるんだ。
順応しているというより感覚がマヒし始めてるだけかもしれないが・・・

「そうだな・・・たとえば昔話だと、はた織り・・・今でいう内職とか?」
ふんふん、という感じで顔を上下させる狐さん。
しかし、現代においてはた織りって必要か?
「あとは・・・竜宮城につれてってくれたり。」

『竜宮城』というワードに首をかしげる少女。
狐に竜宮城を理解しろというのは無茶だ。
まあこの会話の時点が成立している時点でもうなんでもありだが。

少女「どれも私にはできそうにありません・・・ね・・・」
しょんぼりした顔でうつむく少女。
「あ、いや、待ちなって、前例がなくてもいいじゃないか。
    たとえばほら、家事とか。」


少女「家事・・・身の回りのお世話ですね。それならなんとか!」
なんとか笑顔が戻った。よかった。

・・・いやいやいや、よくないだろ!
思わず心の声が口から出た。少女がビクッとしている。
また泣きそうなのでとりあえず話題を変える。



「そ、そういえば君、名前は?」
いいかげん『君』や『狐さん』では面倒だ。
少女「ナマエ・・・名前ですか?」
不思議そうな顔でを見つめる狐さん。
少女「そうですねえ、ヒトの皆さんのような『ナマエ』は・・・特にありませんね。」

なるほど、名前をつける文化自体が人間独自のものなのか。
しかし名前がないとなるといっそう不便だ。
少女「よければ・・・あなたがつけてくれませんか?
   私の・・・ナマエ。」

「え!」

少女「ヒトはお世話をするイヌやネコ、はたまたサカナにまで名前を付けるんですよね。
   ですから、私にも。つけてください!名前!」

なんか目がキラキラしてきた。
もしかすると憧れてたのか?名前。   

しかし・・・急に言われても困る。
とりあえず、最近見た名前の中で、なにかいいものがないか考えてみる。

しばしの間のあと、ちょうど良い名前があることを思い出した。名前は・・・


「そうだ。じゃあ・・・『』は、どうかな?」
少女「・・・」


不思議な顔がだんだん笑顔に変わる。
「はい!とても、とっても!すてきな名前です!
 私の名前は・・・・・・!」

よほど気に入ったのか、歌うように「」を口ずさんでいる。

実は先日スーパーで見かけた油揚げメーカーの名前が印象に残っていたので
それを拝借しただけなのだが・・・こんなに気に入ってもらえると、少し罪悪感すらある。


「それでは、これからよろしくお願いしますね。
  だんな様。」


・・・いや、待て、その件に関してはまだ、結論が出てないんだけど。
しかしこちらを見据えて微笑むには言いづらかった。


・・・結果として、狐と人との奇妙な共同生活が、ここから始まったわけだが・・・


第1話:おわり

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