「ん・・・んぅ・・・」

窓からさしてきた朝日に顔を照らされて目が覚める。
昨日、簡単に夕食を済ませて風呂に入ったあたりまでは記憶があるのだが・・・
布団に入ってないところを考えると、どうもそのまま寝てしまったらしい。

今日は休日だ。
本当なら昨日、帰りに今日の朝食も買ってくるつもりだったが
あいにくそれはかなわず、昨日の夜はカップラーメンひとつだった。
いそいそと着替えて歯を磨き、近所のコンビニを目指す。

玄関を開けると 天気は快晴・・・言いたいところだが、少々の雲が浮いている。
黒ずんだ雲・・・ひと雨きそうだな。
目線をおろすと、 『佐門』・・・の苗字が書かれた表札。
その上にある郵便受けにハガキ一枚入っていた。

「結婚式場のご案内ねえ・・・まず相手がいないことにはなー」
むなしいが放置するわけにもいかず、マイバッグの中にしまう。
後で捨てよう。



昨日の予定とはすこしズレたものの予定通りのおにぎりと他いろいろを購入。
行儀が悪いが、腹が減ってはなんとやらだ。
帰りの道すがらひとつおにぎりをほおばる。


ふと気配がするので背後を見ると、白い猫が近づいてくる。
一緒に買ったスルメを狙ってるんだろうか。
あげないよ、というような視線を送ると、それを解したのか猫は去っていった。

・・・動物といえば、昨日の動物病院はこの角をまがって少しいったところだ。
あとで昨日の狐の様子を見に行ってみよう・・・



「え、いなくなった?」
獣医が文字通り、狐につままれたような顔でゲージをさす。
扉の開いた犬用のゲージの中には、どんぐりが、まるで皿のように葉の上に置かれている。
獣医「なんとか一命は取り留めたんだが、まさか逃げ出してしまうとは・・・
   まだ包帯も取れてないのにねえ。」

「・・・住処に帰ったのかもしれませんね。」
たしか狐を見つけたのは神社の周辺だった。
あのあたりを探してみれば見つかるかもしれない。


・・・と、しばらく神社を散策してみたはいいものの。
狐どころかこのご時勢、野良犬も見つからない。
心配ではあるが相手は野生の動物。
そっとしておくのが一番なのだろうか。

神社から自宅への道を往くの顔を『ピチャッ』という感じの冷たさが襲う。
「・・・うわ、雨降ってきた」
空を見上げると相変わらず日が出ている。

天気雨か。
なんにせよ濡れたくない。
は小走りに自宅を目指すのだった。


自宅に着くころには雨がやみ、気づけばお昼どきである。
さきほどコンビニで調達してきた食材を取り出す。
たまには自炊するのも悪くないかな。

トントン

「・・・ん?なんの音だ?」
すぐにそれが玄関扉を叩く音だと気づく。
ドアの横には呼び鈴がある。わざわざノックする来客は珍しいが・・・

ドアにあけられたのぞき窓をのぞくが、誰もいない。
直後にまたトントンというノック音と振動。
不可解な現象に背筋が冷える。
・・・が、視線を下に下ろしたとき、すぐに間違いだと気づいた。


オレンジ色の髪の少女がドアを叩いている。
どうやら呼び鈴に気づいていないようだ。
「ちょっと待って、いまあけるから。」

1-1

ドアを開けると、窓から見たとおり、金髪の少女が立っていた。
くせっ毛なのか横髪がはねているがそれも含めて愛らしい顔立ちだ。

しかしその容姿は普段着とは思えない服装である。
漫画に出てくるようなサブカルチャー的な巫女姿・・・とでも言えばいいのか。
丈の短い、はかまのようなスカートにニーソックス。
かわいらしい顔にはよく似合うが、まるでコスプレである。

・・・そして、なにより目を奪われるのは、頭の上に伸びた耳。
髪を固めて作っているのだろうか?ごていねいに尻尾までつけている。

少女「・・・やっと、見つけました。」
彼女はを見つめてつぶやくと、パッ、と笑顔になる。
少女「今朝からあなたを探し回っていたのですが、
   さきほど・・・ようやくお姿を見つけて!」


しかし。こんな女の子、は知らない。少しかがんで目線をあわせる。
「え、えっと、ちょっと待ってもらえるかな。
        その・・・どちら様?近所の子かな?」


彼女は少し困った顔をしたが、すぐに口を開き、お辞儀をした。
少女「昨晩はどうも、大変お世話になりまして・・・
   なにかお礼をさせていただこうと思って。」

脳裏に昨日の夜に助けた狐がうかぶ。
「昨晩の、お礼・・・?」
少女「はい、昨晩、『クルマ』にはねられてしまったのを助けていただいた、
   ええと・・・ヒトのいうところの・・・『きつね』です!」


・・・何を言っているんだろうかこの子は。
おおかたイタズラかなにかだろう、変な格好だし。
「きみ、大人をからかうもんじゃ・・・」
あのとき他に人はいなかった。なぜこの子はそのことを知っている?
狐といえば人をばかすイメージこそあるが、あんなのは空想の産物だ。

しかし、よく見ると彼女は腕に包帯を巻いている。
胸元にもすこし見えるが、あまりジロジロ見るとまるでが変態だ。

「いや、そんなバカな。」
少女「・・・やはり、信じていもらえませんよね・・・
  あっ、では・・・これならいかがですか?」


ドロン

まさか文字通り、ドロンなんて音が出るとは思ってもいなかった。
まさか現実で、実際にこんな漫画みたいな煙が出るとは思わなかった。
まさか、煙の中のシルエットがみるみる小さくなり、煙が晴れると・・・

昨日の狐がちょこんと座っていようとは。



あまりの驚きに、の意識は一気にフェードアウトしてしまった・・・

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