現在20時ごろ、いつもの帰り道。
仕事が長引いたはほうぼうの体で家へ向かう。
明日は休みだ。はやく家に帰って休みたい。
その前に夕食を用意しないと・・・

見慣れた住宅街の家の窓には明かりがつき、家族だんらんの雰囲気を感じる。
夜には綺麗な月が出ている。・・・が、それを眺めると、いっそう寂しさを感じるのでやめた。












神社の横を抜けようとすると、ふと黒い影が目の前を横切る。
大きさからして、野良の猫か犬といったところだろう。
そばの茂みからガサガサという音がしている。
・・・暗い道で出会うとさすがに大人のでも驚いてしまった。

神社の横を抜け、少し車通りの多い道に出る。
とはいえ、この時間帯にほとんど車は走っていないようだ。
暗くなってきたこの季節には無灯火運転の不届き者も多い、気を付けなければ。
そんなことを考えつつ疲れた体が帰路を急がせる。


その時。
後方からブレーキ音と軽い衝突音のような音が耳を貫く。
はっと振り返ると一台のセダンが道に停車し、運転手が何かを探すように
キョロキョロと周りを見回す。
こっちからはよく見えないが、どうやら向こうもには気づいていないらしい。

運転手は反対車線にUターンして逃げるように去って行った。

事故か?
そう思ったが周辺に人影はない。
しかし、車が停まっていたすぐそばに「被害者」が転がっていたことに気づく。

イヌ・・・いや、イヌに似ているが、おそらく違う。
図鑑やテレビでしか見たことがないが、おそらくそれはキツネだった。
茶色い毛皮をした狐が、道路に横たわっている。
おそらく、今の車にはねられたのだろう。

おそるおそる近づいてみると、まだかすかに腹が上下している。息があるようだ。
とはいえグッタリとした様子のそれは今にも息を引き取りそうで、苦しそうな様子だった。
正直に言えば気味が悪くて近づきたくないが、現場を見てしまった以上
無視するのは気が引ける。

「・・・ああ、もう!!」

脳裏に昔飼っていたペットとの別れが浮かぶ。
花と一緒に段ボールに入れられ、冷たくなった彼の寝顔を思い出す。

気づくとは、狐を抱きかかえて走っていた。
抵抗する力もないのか、血だらけの腕をだらんと垂らしてに抱えられる狐。
幸い自宅の近所に動物病院がある。

自分でも信じられないほどの気力で病院までたどり着く。
診療時間の終わりを示す札がかかっているものの、まだ扉から光が漏れている。誰かいるようだ。
近所迷惑も顧みず、力いっぱいに戸を叩く。

「誰かっ!緊急事態なんだ!!助けてくれ!」

ガタガタと音がした後、鍵があく音。
何事かという顔をした中年の男性が扉を開く。

「今さっき、そこで、くるっ・・・車っ・・・!」

息が切れて言葉が出てこない。
しかし、男性は事態を察したらしく、を院内へ招き入れた。

狐を獣医に預け、しばし呆然とする。
ふと視線を落とすと、シャツが血だらけになっていることに気づいた。
不謹慎なことながら、明日が休日でよかった。

しばらく待合室で待つ。
まだ8時。とはいえ仕事の済んだ病院は静かだ。
その静寂をやぶるように、手術室のドアが開く。

すぐさま立ち上がったを見て、男性は笑顔を作る。
獣医「安心してください、おかげで一命は取り留めました。
   しばらくこの子はうちでお預かりしましょう。」


今は白衣を着ていないが、その笑顔を見ると、普段の姿が目に浮かぶ。


丁重にお礼をし、あらためて家路につく。
カバンに仕舞っておいた上着を、血だらけのシャツを隠すように羽織る。
今日の夕飯は、買い置きしておいたカップめんで済まそう・・・




第0話・おわり。


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