普段通りの放課後。
木羽が何やらつぶやいている。
「俺の成績、終わったぁああああ!!」

期末テスト。
高校生の修羅場というやつだ。

Metal-Triale
ep04・・・『テスト泥棒-逆転鍔輝』

「お前なぁ・・・まだ1週間あるんだぞ?」
この男、今日この日まで勉強というか、授業を睡眠で過ごしていた。
残り1週間では挽回不能な気がするが、一応社交辞令ってやつだ。


「お前はいいよな!勉強しなくても点採れるもんな!!」
別にオレだって、勉強しなくて点が取れるわけではないのだが、
まあ・・・今のコイツに何を言っても無駄だ。

さて、ここ数日はテスト週間ということで部活はない。
Metalを悪用するような生徒も今はテスト勉強で必死なのだろうか。最近は目立った事件もない。
そんなわけで少し校内をぶらつくことにした。
どこを見ても頭を抱える生徒、カバンを抱える生、テスト勉強をする生徒、ペンを投げ出す咲楽。
・・・今知り合いが無様な姿をさらしていたが気にしないことにしよう。

「おまえがやったのはわかってるんだ!来いっ!」

職員室の横から絶望と苦悩にあふれた雰囲気に似合わない大声。何かと思ってそちらを振り向く。

「ち・・・がっ・・・!!」
制服をキッチリ着た男子生徒が眼鏡の女子生徒の腕をつかんでいる。
穏やかではない光景だ。

「おい、どうしたんだ?」
「なんだお前!?お前には関係ないだろ!」
当然ながら突っぱねられるのだが、俺はこう答えた。

「・・・悪いな、トラブルに首を突っ込むのがウチの部活の役目だ。」

我ながら、カッコつけたというか、・・・変わったな。俺も。
男子の顔が苦々しいのが、少し恥ずかしい。

女子の名前は流院 呈華(りゅういん ていか)。2年生。咲楽と同じクラス。
そして男子の名は観上 満人(かんじょう みつひと)。同じく2年で生徒会執行部所属。
ふたりの「もめごと」をまとめるとこういうことだ。

テスト期間中、職員室横に特設される先生がたの作業部屋
テストの問題や答案を作るための通称「お宝部屋」から流院が答案用紙を盗んだというのだ。
その瞬間通りかかった観上が捕まえた、とのことである。

「ち、違います・・・っ!だって私、ここに、答案が落ちてたから・・・ッ!」
「見苦しいぞ、すぐにばれるような嘘をつきやがって!
両者ヒートアップ・・・というか、観上が一方的に追い詰めているような印象もあるが
それは流院の態度がそう見せているのだろうか。

普通なら怒り出しそうなものだが、彼女は「盗んでいない」の一点張り。
今にも泣きだしそうなほどに見えるのだが、それでも耐えているというか・・・
少なくとも、嘘を言っているようには見えない。

「一応確認したいんだが・・・流院が盗んだという証拠は?」
何を言ってるんだ、といわんばかりに観上が流院の手、二つ折りにされた用紙を指さす。
「いま、この時点で答案用紙を持ってるのが何よりの証拠だ。
 毎回成績上位にいたのはこういうことだったわけだ。そうなんだろ?」

そういえばこの観上という男、テストでは毎回成績上位に食い込む優秀者だ。
この学校では成績上位10名の名前が(点数は守秘されるが)公表されることになっている。
どこかで聞いた名前だと思ったが、すぐそばの壁にかかった成績表に二人とも名が載っている。

手に持っていたスクールバッグを放り投げて、
今にも流院に掴み掛りそうな観上を抑えて、今度は流院に目をやる。
「キミは・・・その答案用紙を拾って、どうしようとしたんだ?」

カバンにしまおうとしたんだろう、という観上の言葉をさえぎる形で流院が口を開く。
「せ・・・先生に渡さなきゃ、って思いました。だから、二つ折りにして・・・」

「待った。」
鍔輝が流院の言葉を止める。
先ほどよりも少し険しい顔つきだ。
「この答案用紙を・・・二つ折りにしたんだな?この形に。中身が見えないように。」
まるで刑事の取り調べ、いや裁判のようだ。・・・さすがにそれは言いすぎか?
「え・・・あ、はい。」
「ちなみに、中は見たか?」
「あ、あの・・・一瞬だけ。めくったとき、期末」
「言っておくが俺もみてないからな。俺もカンニングを疑われたら敵わん!」

「一つ・・・、観上。」
まだ何かあるのか。もういいだろう、とばかりに観上がオレをにらむ。


「なぜ、この用紙が答案だとわかった?」


「は?何言ってるんだよ。そんなの見ればわかることじゃないか。」
「見ればわかる?どこを見ればわかるというんだ?この二つ折りの用紙を見て・・・」

違和感の正体はこれだった。
流院が持っていたこの用紙の中身を知っている生徒は流院のみ。
それなのに観上は答案用紙だ、と断定して流院を捕まえていた。その違和感・・・

「そもそも、これは本当に答案なのか?」
「は!?な、何言ってんだ!さっき流院が・・・」
「言い方を変えるとだな、これはいったい何の答案なんだ?」
とは言ったものの、中身を見るのはさすがに問題だ。
・・・いや、すでに問題になっているのだが、さらにそれを悪化させるかもしれない。

「見てもいいわよ。中身。教師として許可するわ。」

いつのまにか周囲には数人の野次馬が集まっていた。
それを察知してか否か、野次馬をかき分けるように女性の声が入ってくる。
この声・・・早乙女先生だ。授業中にふざけた生徒を昼休みにソロライブさせた一件。
通称『お昼の公開処刑』で知られる音楽室の女王・・・もとい音楽教師だ。

「取り調べごっことは随分と不謹慎な遊びをしてるのね。
 その中が見たいんでしょう?さっさと終わらせなさいな。」

その言葉にすがるように、観上がプリントを奪い取って開く。
中身は・・・

「なっ・・・違っ・・・!」

小声だったが確かに聞こえた。流院も聞き逃さなかったらしく、一瞬ハッ、とした表情をする。
そして、この俺自身も確かに聞いた。「違う」と、その一言を。


「何が”違う”んだ?観上。」
ぱっ、と観上からプリントを奪う。中身は国語、期末テストのプリント用紙だ。
ただし・・・答案ではなく、問題用紙だった。


「・・・知っていたんだな?ここに落ちていたのが答案用紙だったということを。
 それはなぜか?」

もはやここまで来たら引くことはできない。
少々のハッタリを織り交ぜて突きつける。

「お宝部屋に侵入し、答案用紙を盗んだ犯人・・・それはお前だからだ!!」

我ながら、よくもまあ証拠もなくこんなことを言えたものだ。
しかし・・・

「は!?えっ、な、な、な、何をッ・・・!!」
明らかに観上の顔はひきつり、冷や汗があふれ、明らかに動揺している。
この反応こそ、俺の疑いを確信に変えてくれた。

「答案がなくなっていることはおそらく、すぐにバレるだろう。
 ということは・・・だ。今バレてない以上、それを盗んだのはごく最近・・・
 おそらく今日、それも数分前・・・」
と、自分でも驚くほどに饒舌に畳み掛ける。

「つまりだ。お前はお宝部屋に侵入して答案用紙を盗み出した。
 そして部屋を出るとき答案を一つ落としたんだ。
 それに気づいて戻ってきたお前は、プリントを拾った流院を発見した!!」

もはや動悸と痙攣で言葉すら出ない観上。

「どうした?違うのなら違う、と言えばいいじゃないか。」



「な、なんで・・・」
やっとのことで、言葉を紡ぎ出した観上。その声は震え、今にも倒れそうだ。
「なんで・・・わかったんだ。俺が・・・盗んだってよぉ・・・!」

今お前が教えてくれたよ。と俺が笑顔で言うと、観上は力なくうなだれた。




「あ、あのっ。・・・あ、ありがとう・・・ございます。」
早乙女先生に連行される観上を背に、流院が俺に声をかけた。
「ん?いや・・・余計なことしたかな、とも思うんだけどさ。
 なんていうか・・・アイツなら、こうしたかと思って。さ。」

おそらく広報部の部長なら・・・咲楽なら。
この騒動に首を突っ込んだだろうし、納得のいかないまま流院を見捨てることもしなかっただろう。
そんな考えをしてしまうほど広報部から・・・彼女からうけた影響は大きいらしい。

「その・・・名前、・・・教えてもらっても・・・いい・・・ですか?」

俺は無言で、成績表の一番上を指して、こう言った。
「広報部の白銀鍔輝だ。また何か困ったことがあったら部室へ来い。」







ep04
Compreat