今日も今日とて、暇な放課後。
音楽の早乙女先生は今日は若干ご機嫌斜めだったらしい。
授業中ふざけた生徒に、お昼の放送でソロライブを行わせるという暴挙に出た。
気の毒な反面、非常に面白かったが今日もそれくらいしか無い。
いつもと変わらない退屈な一日を過ごして・・・

は、いなかった!!

「つ、鍔輝!校庭に犬が逃げ込んだから何とかしてって!」
「待てぇ!勝手に依頼受けるなー!!」
「あたしが部長なんだからいいでしょ!」

先日のモンゴル相撲部から話が広まったらしい。
思った以上に依頼が舞い込むようになってきた。

Metal-Triale
ep03・・・『学校荒らし-闇にまみれて』

「工作室荒らし・・・?」

その生徒は紅色の髪を立てた男子生徒。
名前は穿田 翔無(うがた しょうぶ)。工業科の1年生である。

ここで少し、この学校について説明しておこう。
この前巻高校にはいくつかの科がある。

有名大学への進学を目指す生徒の進学科。
建築技術などの技術系学科、工業科。
パソコンを中心とした情報処理の情報科。
そして、鍔輝や咲楽、木羽が所属する普通科である。

「ここ最近、どうも夜中にうちの科の工作室に忍び込んでる人がいるらしいんです。」
翔無は事件について説明を始めた。

事の発端は3日前。朝の工作室でのことだ。
工作室に保管されていた製作中の作品が破壊されていたという。
もちろん工作室にはカギも掛かっており、開くような窓もない
さらにその翌日にも他の作品が破壊されている。ということだ。

「つまり、あたしたちに犯人を探し当てて欲しいってことね?」
咲楽が眼を輝かせて体を乗り出す。
「は、はい・・・お願いします・・・」
目の前の先輩の喰らいつきに若干翔無は引いている。

さて、2人は早速現場に向かう。
「どうしたんだ?何でそんな食いつき方を・・・」
人気のない廊下で、鍔輝がこっそりと聞く。
「だってさ、「普通ならありえないこと」が起こってるわけでしょ?
 それって怪しくない?」
「・・・Metalが関わってる・・・と?」
「うん。それに先生に相談したら、是非受けなさいって。」
先生・・・顧問のことだろう。
そういえばまだ詳しい話を聞いていない。どんな人なのだろうか。

「ま、今日も仕事が忙しくて部活には顔出せないって言うけどねー。」

現場は普通校舎のとなりの専門校舎1階。工作室は一番西のはなれにある。
中に入るとそこには、金型製造機械や各種工具など、そしてそれを振る生徒がいた。
「竜太さん。」
翔無がその中の一人に声をかける。青いジャージに入ったラインからして、3年生だ。
「よぅ!どうした?」
「諜報部の方です。」
竜太と呼ばれた3年生は鍔輝たちのほうを見ると、靴を履き替えてこちらにやってきた。
(作業スペースの一部の床は土そのままになっている。)
「なるほど・・・御苦労さま。とりあえず部長を呼んでくるから待っててくれよな。」
そう言って竜太は技巧室の奥の扉へ駆けて行った。

廻(まわり)竜太先輩です。
 部長と並ぶ技術を持った・・・すごいヒトですよ。」
そう言う翔撫の目は、確かに憧れのまなざしだった。




さて・・・夜である。
夜の学校といえば会談だが、今回はそんなことはいっていられない。
そして場所は暗く静かな作業室である。

ゴゴ・・・ゴゴゴ・・・

謎の地響きが鳴り響く。
作業場の奥、土が敷かれている部分が盛り上がる。

ドゴォッ!

「・・・」暗闇の中に、巨大なドリルを持った人影が現れる。
人影は狙い澄ましたように、部長の制作物へと向かっていく。

「はい、そこまで!」

とんっ

「!!」
天井から人の声、そしてその後、咲楽が下りてくる。
「女の子をこれだけ待たせるなんて、ひどいんじゃない?」
「っく・・・!!」
ドリルの男は手のドリルを振りかざし、咲楽に襲いかかる。
マスクのせいで、顔はわからない。

「大振り、空振り。
 戦うのは得意じゃないのかな。センパイ?」
軽く攻撃をいなして、男を煽りながら
右手のロープをドリルに巻き付け、動きを止める。

「・・・ッ!!」
ギュルンッ!!
ドリルの回転に巻かれ、ロープが引かれる。
(やばっ!)
「か、かか解除っ!」
一瞬で咲楽のMetalが分解し、ドライバーに戻る。
当然ながらMetalに含まれたロープも消滅した。

「んでもってトライアルッ!」
再度Metalを装着し、今度は左手の武装に手をかざす。

「ちょっと痛いけどガマンしてよっ!!」
かざした場所から、光のクナイが現れる。

シュバババババババッ!

「くぅ・・・っ!!」
無数に放たれた光のクナイは男の服や
マスクを切り裂く。
「やっぱり、貴方だったんですね〜
 竜太センパイ♪」

肩を落とし、Metalを解除する竜太。
そこに咲楽が声をかけた。

「・・・なんでこんなことしたんですか?」
「・・・・・・魔が差したってトコ・・・かな。
 前から嫉妬しててさ。部長たちの才能ってヤツに・・・」
驚くほどに冷静、しかしさびしげな自白。
事件は静かに、幕を閉じた。


「そういうコトだったよ!」
翌日部室にて。
「・・・で、大丈夫か?穿田。」
ソファに座っているのは・・・翔撫だ。
見たところ相当落ち込んでいる。


「竜太センパイ・・・まさか・・・あの人が・・・」
心ここにあらず、という状態だ。
聞けばここ数日こんな感じらしい。


「・・・鍔輝。」
咲楽がつぶやく。
「これが、Metalの本性。」
「・・・本・・・性・・・?」

「ほとんどの人って、こういう”力”を制御できないんだよ。
 強い力っていうのは、人の心を惑わせて、暴走させる。」


「・・・強い力・・・か・・・」


「どうして・・・この学校にこんなものが
 出回ってるんだろうね?」

「さぁ、な・・・少なくとも。」

鍔輝は立ち上がり、窓を見てつぶやく。
「誰かが、止めてやらないといけないんだろ。
 止められるヤツが・・・な。」

窓の外には、不吉な暗雲が立ち込めている。
春の空はやがて、初夏の空に変わっていった・・・


ep03
compleat