「隣のクラスか・・・あ。いたいた!
 それにしても・・・あのシャツは有り得ないなぁ・・・」


Metal-Triale
ep02・・・『女性関係-ヒロインの必要性』


下駄箱。それは甘酸っぱいなんていってる場合じゃないニオイも混ざる謎の箱だ。
しかし、鍔輝のくつ箱からは若干甘酸っぱいニオイの手紙が出てきた。
「・・・どうしたものか・・・」
「なんだ!?ついにお前にも浮いた話が来たのか!?」
キバのテンションはほうっておこう。ウザい。
手紙の中身を要約すると、放課後に屋上に一人で来いという事だった。
よくある文章だが若干字が汚いのが気になる。

「悪いが俺は店のほうが忙しくてな!がんばれよ鍔輝!」
・・・もうこいつはダメだ、早く何とかしないと・・・

そんなわけで、早くも放課後。指定通り屋上のドアを開ける。
若干手が震えているのは別にそういう意味ではないぞ!!ただの武者震いだ!そうだ!

・・・誰もいない。

「指定したほうが遅刻とは・・・どういう・・・」
「こっちこっちー!」

(後ろ・・・上か!?)
振り向いた瞬間、影が頭上を・・・というか女子が頭上を飛び越えて鍔輝の前に着地した。
白いリボンで縛られた長い茶髪が地面につく直前に彼女は立ち上がり、こちらを振り向く。
見た感じ1年生だろうか。

「こなかったらどうしようと思ってたよ!シロガネくん!」
「・・・?」(なんだ?なんか妙に軽くないか?というかタメ口って・・・)
「あ、あたし隣のクラスの倉崎 咲楽(くらさき さくら)。よろしくねっ!」
「あ、ああ・・・」突き出された手を握り返す。
・・・期待してたものとはずいぶん違う。
ときめきを返せ・・・あ、いや、ときめいてなんかいない!

「・・・あ、あの。」
あからさまな「何?」という顔。かなり顔に出るタイプらしい。
「倉崎・・・さん?一体オレになんの用だ?」
「・・・ああ、もう本題入るんだ。」
ああって。本題はもちろんあれだよな?あれなんだよな?
そんな期待のまなざしを読み取ったのかは知らないが、彼女はどこからともなくプリントを出した。

「部活の勧誘。」



「・・・は?」
「ほら、聞いたらシロガネくん、帰宅部だって言うんだもん!才能のカタマリのキミが
 そんな高校生活送るなんてもったいないよ!!だから・・・」


「帰る。」
「ちょ、ちょちょっと待ってよ!!部活名も聞かずにそれって何よ!?」
「じゃあ部活名は?」


「諜報部」



「帰る。」
諜報部なんて部活は聞いたことも無い。ふざけてるのか?


「・・・これを見てもそう言ってられるかな〜?」

「・・・それは・・・!!」
彼女が手に持っているのは紛れも無い。Metalだ。ストラップがついてるけど。
「こんなとこにわざわざ呼び出したのは、誰かに見られちゃまずいから。」
「・・・お前もオレを狙ってるのか?」
「あれ?もう知ってるんだ。そういう関係の話。じゃ、話は早いね。」
ポケットに入れたMetalを取り出し、カードを装填する。



「ちょ、ちょっと待ってよ!戦うつもりはないんだって!」
「・・・何?」
「そもそもそれなら声なんてかけずに襲ってるって。あたしのMetal的にも。」
「・・・じゃあ・・・まさか本当に・・・?」
「諜報部って言ったけど、表向きは広報部。顧問もいるけど、

 さすがにあたし一人じゃ部員が足りないからさ。」
「それがMetalと何の関係が?」
「・・・とりあえずさ、来るだけ部室に来てくれない?寒くなってきたし。」



広報部、部室・・・・・・・・・・・・・・・「?」



正直これは部室なのか?物置きの間違いじゃないのか?
「あ、ここは去年つぶれたモンゴル相撲部の備品庫だったの。」
「・・・あったなそんな部活。」

「で・・・さっきの話の続き。部活の内容とも被るんだけどさ・・・」



ここ最近、生徒間の都市伝説的に知られている謎のアイテム『Metal』
巻き起こる事件の裏では何者かが学校内にMetalをバラ撒いているという。

この状況に対抗する為に組織された「裏・風紀委員」。それがこの諜報部である。

事件を真っ先に察知したとある教師が顧問となり
その教師が見つけ出した「Metalを持つ協力者」。
それが咲楽である・・・ということらしい。


「わかった?」
「・・・ああ、まあ。大体な。だが・・・対抗ってのはどういうことだ?」
「このまえキミを襲ったあの不良のセンパイみたいに、悪さをする人がいるじゃない。」
「なるほど、そんな生徒を粛清するってことか」


「シュクセーって?」


「・・・辞書で調べてくれ。」



「しっかし・・・汚い部屋だな。」
「まあね。こればっかりはしょうもないよ。」



「・・・で。仮にだが、断わったらどうするんだ?」
「別に?今のところ危ない感じはしないし、まあマークはするけどさ。」
「・・・一人でやってるのか?もしかして・・・」
「今のところはね。先生は忙しいし。」

「忙しい・・・か。」


「人手が増えるとたすかるんだけどなー・・・」
物凄い視線を感じる。大丈夫か?若干血走ってないか?
だが・・・もしかしたら。退屈な日常から解放されるんじゃないか?
考えてみれば鍔輝が部活に入らない理由は中学にある。

彼はどんなことも完璧に出来すぎた。
出すぎた釘を打つことの出来ないチームメイト、そして何をやっても勝ってしまう鍔輝は
いろいろな部活を転々としていたが、そのうち

彼は何をやってもつまらないと感じてしまうようになっていた。



「・・・仮入部。」
「・・・え?」
「とりあえず仮入部だけさせてくれ。それから決め」


「おっしゃああああ!!」




ここまで喜ばれると気が引けるのだが・・・

「さあ、それじゃ早速主な活動を教えるね!」


「活動内容はいたってシンプルかつ単純で簡単!学校内の事件を追い求めて
 その詳細をみんなに広めるの!
 でもそれだけじゃつまんな・・・もとい新聞部と被るから、さらにうちのみの活動!それが
 なんでもお助け活動!つまりはスケッ・・・」



「待て!それ以上は言うな!!」

そんな感じのグダグダした雰囲気をかき消すかのように
けたたましくドアが開く。

「ん?」

ドアを開けたのはガタイのいい男子生徒だ。
「えっと・・・確かモンゴル相撲部の部長さんですよね?」
「そうです。広報部に依頼をしに来ました・・・」



彼の話によると、新モンゴル相撲部に設置した金庫の鍵が見当たらないので、それを
探してくれ、ということらしい。



「しかし、無いよねー?」
「何で仮入部のオレまで・・・」



今は使っていない焼却炉のフタを閉じながら、二人は顔を見合わせる。
外はもう夕日が差し掛かっている。


まだ期限までに時間はある。

「しょっぱなからこれか・・・あまりいい見学とはいえないんだが。」
あまりいい表情をせず、鍔輝は部室の椅子に座った。
「ご、ごめん・・・でも!次の依頼は成功させるから!!」

咲楽はとりあえずとばかりに、書類の整理をする。


「・・・ふぅ・・・」
鍔輝もそれを手伝う。
書類はほとんどが新聞の切抜きや、生徒の情報のメモだった。
山積みになったファイルを、咲楽が持った、そのとき。


カラン


「・・・あ。」

鍵だ。いわれてた通りの。

「鍵・・・だな。それ。」
唖然とした表情で鍵を見つめる鍔輝。咲楽は鍵を取る。
「鍵・・・だね。どう見ても。」
そう。簡単な話だった。
元モンゴル相撲部の備品庫であるこの部屋に、鍵は最初からあったのだ。
ただ、おぞましい数の書類のせいでそれが見つからなかっただけらしい。

「ん・・・んー・・・まあ・・・とりあえず・・・


ep02
Compreat



ってことで!」



「か・・・」







「勝手に終わらすなァアアアアア!!!」