『まずはこちらのニュースです・・・』
ニュース番組だ。斜め四十五度の女性アナウンサーが記事を読み上げる。

『昨夜、空栗市前巻町で高校生数人が何者かに切り付けられる事件が発生しました。
 4人が重傷、1人が意識不明の重態です。切り傷から、チェーンソーのようなもので
 切りつけられたと思われ、似たような事件が周辺で頻発していることから、
 同一犯による事件と見られています。』

・・・平和な町に似つかわしくないニュース。
このニュースが後に、大きな騒動に発展するとは
この時点では誰も、想像していなかった・・・


Metal-Triale
ep01・・・『始動-パスワードは"Triale"』


時は近未来!


思ったよりも生活は変化せず、『現代』とあまり変わらない未来。
発達したロボット技術により、数々の自立ロボットが・・・

開発されるのは、ほんの少し後のこと。



空栗(カラクリ)市、前巻(ゼンマイ)町。
中部地域に存在する、どこにでもある町。

そして、物語の主人公はたった今。数学の授業を受けているところだ。
教師が教科書の問題に、うっかりミスで苦戦している。



(・・・そこは6を代入だろ・・・)



教室の中央手前の席に座る、灰色短髪の高校生。
白金 鍔輝(しろがね つばき)
入学からほぼ2年が経つが、毎日が変わらぬ、平穏、そして退屈な日々だった。

「鍔輝!次、体育だぞ!」
無意識のうちに提出、丸付けの済んだノートを眺めていた鍔輝にかけられる声。
赤い髪をした長髪の男子生徒が怪訝な顔で友人を見ている。


「キバか・・・ていうか。授業終わってたんだな。」
キバ・・・その長髪の生徒、鷹村 木羽(たかむら きば)がため息をつく。
「集中してるのか、魂が抜けてんのか・・・」
多分、後者だ。

何も変わらない体育。普段と変わらない、体育教師の暑苦しい声。

そうこうしているうちに、放課後になり、家に歩いている自分がいた。

木羽とは小学校からの親友だ。彼の家はラーメン屋。
本人は家業を継ぐのは嫌がっているらしい。

「ただいま。」
専業主婦の母に声をかけ、手洗いとうがい。


「鍔輝、あなた宛に何か届いてるわよ。」
特に何か注文した覚えはないし、何か届く覚えもない。
どうせ、ただのダイレクトメールだろう。とタカをくくっていたが、
その荷物はそんな予想を裏切った。

「・・・精密機械・・・?」
小さなダンボールに精密機械注意の張り紙。差出人は・・・不明。
まさか、爆弾ではないだろうな。



部屋で恐る恐る、箱を開ける。
中に入っていたものはギターのピックを大きくしたようなよくわからない何か。中に基盤が見える。
そしてもう一つはゴツい携帯電話のようなもの。上部に差込口がついている。
携帯電話やゲーム機にしては画面がない。

箱の奥に説明書らしきものが入っている。



「エム、イー・・・MEATL(メタル)?」


・精密機器ですので、水にぬれないようご注意下さい。
・公共の場所、混雑する場所でのご使用はお控え下さい。
・マンガのヒーローの持つような、呼べば現れるような代物ではありません。
 肌身離さずにお持・・・



バカらしい。
そう思って、説明書を箱の中に放り投げる。


翌日。
「・・・くそっ・・・」
結局、気になって説明書を読破してしまった。
最初の授業は自習だった。残った宿題も無いので、寝る。



「・・・先生・・・怪我したんだって?」
「うん。ウワサだけどさ、アイツにやられたらしいよ!」
「アイツって・・・もしかし・・・最き・・・ん続・・・」

聞こえてくるクラスのおしゃべりがフェードアウトし、

次に気がついたのはキバに起こされた時だった。



放課後の帰り道。今日はキバは店の仕込みだかでさっさと帰った。
(そういえば・・・)カバンをさぐる。
朝、うっかり寝坊しかけた時、携帯電話と一緒に放り込んでいたものがある。


「・・・結局、何なんだ、これは・・・?」
Metalだ。夕暮れに照らされて、青いボディが若干オレンジがかっているが
正直なところ、いまだに玩具にしか見えない。



「おい!そこのヤツ!」

気づかなかった。横の電柱に誰か寄りかかっている。
制服を見る限り、同じ学校だ。それに何度か見た覚えがある。
「ウチの学校のヤツか・・・そのカバンのヒモの色は・・・2年か。」
「・・・?」
「大体解るだろ?お前のソレ・・・俺によこせ。」

いわゆるカツアゲだろうか?
「・・・金なら持ってないですよ」
「ふざけてんの?その手に持ってる・・・

 





Metalのことだよ。」



そのとき、ふっと、彼を見た記憶を思い出した。
職員室の前を通った時、生徒指導室の中で。



坂金 刈真(さかがね かりま)。


他校の生徒を病院送りにし、何度も謹慎を喰らっている筋金入りの不良だ。
「さっさと言うとおりにしろや・・・」
「・・・!」


直感だが、嫌な予感がした。

刈真は着崩した上着の内ポケットから、Metalを出した。
「ケガしたくねえだろ?・・・残念だけど俺はケガさせてぇんだよ。・・・トライアル!」
一瞬激しい光があったかと思うと、刈真の腕に、チェーンソーが握られていた。
・・・いや、握られていたというよりは、チェーンソーつきの手甲といったところか。
「さっさとよこせや!手前の腕ごとなぁ!」
「・・・くっ!!」



今、話題の通り魔。
あの事件の情報が・・・頭の中で繋がっていく。



凶器は・・・チェーンソー・・・
・・・被害者は・・・付近の高校生・・・いや・・・
ニュースで報道されていた5人の高校生はいずれも不良生徒。
そして教師。彼らの共通点は・・・ある人物に関わっていたこと・・・


つまり・・・事件の犯人は・・・!!



何とか間一髪のところで攻撃をかわすが、攻撃のかすった制服はボロボロになっていく。
「うぜぇな。ちょろちょろしやがって。」
「・・・」(どうやらこれはオモチャじゃあ無いみたいだな・・・!!)
説明書は熟読した。だが、うまくやれる自信は無い。
(・・・いや・・・うまくやれるかなんて関係ない・・・!!


 やるかやられるか・・・!!)


一か八か。Metalを突き出す。
「よこす気になったのか?それとも・・・」
「よこさない方に決まってるだろ・・・!」



親指と中指で左右の認証スイッチを。

人差し指でピックのような基盤・・・メタルカードを押さえる。



「トライアル!!」



ピコン!という電子音の後、アナウンスが流れる。



-Password authentication. Decompression beginning. -
-TRIAL-



「おぉおお?」
一瞬の光の後、鍔輝の右腕と両脚に、何か機械が装着される。
腕には刀のようなものが、脚には・・・ブースターがそれぞれセットされている。



「いい感じじゃねぇか。俺が頂いたぁ!!」
刈真のチェーンソーがうなり声を上げ、頭上に飛び掛ってくる。
「・・・ッ!!」



ゴウッ!



右へのステップの瞬間、ブースターが火を噴き、予想をはるかに越えたスピードで跳躍する。
「うっ・・・お・・・!」
「・・・マジパネェだろソレ・・・うらぁ!」


チェーンソーの攻撃。右腕をとっさに出すと折り畳まれていた刀が展開した。



ガキィン!!



「ぐぁ・・・硬ってぇ・・・!!」


刈真がひるんだ一瞬のスキをついて、後方に走る。

説明書によると、Metalとは・・・


データの入った『メタルカード』と、それを読み込み、解凍する『ドライバー』がセットとなった
超大容量物質記憶デバイスである。



解凍された機械には、どこかにドライバーが制御コアとして組み込まれている。
つまり。それを破壊すれば・・・

「逃げてんじゃねぇぞコラァ!!」
激昂した刈真がこちらに走ってくる。予想通りだ。

後は・・・


ゴオォ・・・ドォン!


ブースターを使った大ジャンプ。
鍔輝は突進してきた刈真の頭上を飛び越える。
振り向きざまに、背中を見ると・・・あった。制御コアだ。

「おおおおおっ!」



ザンッ・・・!!






「んー・・・あの子、なかなかセンスあるんじゃない?先生。」
「そうね。初戦でここまでMetalを使いこなすなんて・・・運命かもしれないわね。」







坂金 刈真はその後、警察に御用となった。
Metalは、コアを破壊するとその時点で機能を停止し、解凍されたままの状態となる。
今回は当たり所が悪かったらしい。コアは派手に爆発し、刈真は気絶。
手に握られたチェーンソーが被害者の傷跡と一致し、それが決定打となったという。



「ふーん。よくそんなのと会って逃げなかったな。」
キバをはじめ、人にはMetalのことは話さなかった。
どうやら、このMetal、刈真のように他人のMetalを狙うものもいらしい。



突如始まった非常事態。もしかして、退屈な日常から脱出できるのではないか・・・
鍔輝は心のどこかでそんな期待を持っていた。








ep01
Compreat