ついに一行はたどり着いた。
友を救いに来た者、兄弟を求めに来た者。復讐を果たすために来た者、元の世界に返るために来た者・・・
今、ついに彼らはたどり着いたのだった。

運命の地、坐不都の国・・・

第18話:決戦の地、兄弟の血

とは冒頭で書いたものの、正直なところ拍子抜けもいいところだった。
なんといっても、平和な町である。今までのイメージとはぜんぜん違う。

そもそも坐不都の国とは・・・
天宮の、特に元時穏の国に住んでいたものたちによる独立国である。
20年前、現坐不都の主である『天狼貴(テンロウキ)頑駄無』が立ち上げたもので、
天宮との国交も優良だ。彼らの知る限り。

「・・・とにかく、あいつら・・・だよな。」
「・・・うん。」
白凰は烈紅龍の言葉に返す。
「僕らの敵は・・・裏月!」

『裏月』。今までの旅の中で何度も聞いた名だ。
「とにかく奴らを探し出して・・・なんとしても紅牙を・・・!」
「白兄!核鬼の野郎を忘れんなよ!」
そう意気込んだ瞬間だった。

「バカ言ってんじゃねぇ!」

突然の怒声。空のほうから声がする。
空を見上げると、そこには・・・

「天・・・鷹・・・さん!?」

天鷹頑駄無。言わずと知れた天宮の公儀武者組織、『剣刃隊』の一番隊隊長だ。

「お前ら・・・本気で言ってやがんのか?」
「ていうかアンタ誰だよ。」
納徒ほか数名の視線に答えるため、説明が始まる。

「・・・で?その公儀武者殿がなんの用です?」
「・・・というか、なんで天鷹さんがここにいるんですか!?」
「というかあんた結局誰だって?」
「バカ言うってどういうこと?」
「扇子好きですか?」

「あーも!!質問を一つに絞ってくれッ!!
特にそこの赤鉢巻!話聞いてなかったのかよ!!」


「裏月ってのはな!今世界を轟かせる秘密組織のことだ!
 ・・・噂じゃかつての闇軍団や百鬼夜行衆並の力を持ってるらしい。
そんな連中にお前らだけで叶うと思ってるのか?」

「で・・・でもっ!」白凰は意思を曲げようとしない。
その様子を見て、天鷹はやれやれ、と言った感じで首をかしげた。

「どーせ止めても無駄だってのは解ってるよ。お前はあの人の息子だし。」
その言葉に、白凰が反応した。白凰の父。つまりは電光だ。
「・・・あの人って・・・僕の父さんを知ってるの?」
「え?・・・まさかお前、聞いてなかったのか?」
「いや、だから何を・・・」
と、上手い具合に話が進まない。
そして、なんともいえない表情で(たぶん電光にむけてのものだ)彼は答えた。

「お前の親父さん・・・電光頑駄無は俺の義理の親父だ。」

「・・・え?
 え・・・え・・・え・・・」

呆然となる白凰。そりゃそうだろう。だれだってこうなる。
天鷹が言うに、彼は物心つく前に戦で家族を失ったらしい。それを拾ったのが、
若いころの電光だったと言うのだ。

「そんなわけで。親父の息子を危険な目にあわせるわけには・・・」
「でも!僕は行くんだ!!」いまだに彼の心は変わらない。
「そうじゃない!」

一瞬。空気が固まる。
「旅してたお前達は知らないだろうが・・・
坐不都の国と天宮は今、敵対関係にある。・・・裏月をかくまっているという理由でな。」
物悲しげな口調で続ける。
「総隊長は遂に強行手段に出たんだ。
天宮の兵に替わって、俺たちが。」

ゴウン・・・ゴウン・・・
港に機械音が響く。その音に近隣の人々が空を見上げる。
・・・日光が途切れ、影ができる。そこに飛んできたのはなんと剣刃隊の砦の倍はあると思われる・・・
巨大戦艦!

「あ・・・あれは・・・!?」
「天宮天使(アークエンジェル)。剣刃隊が誇る戦闘要塞だ。」

「天鷹!」
剣刃隊の武者がひとり、天鷹に駆け寄ってくる。呼び捨てるあたり、彼もまた地位の高い隊士なのだろう。
橙色の鎧と背中の双刀が眼を引く。
「おう。双牙(ソウガ)!時間ぴったしだな!」
「こっちの隊は準備万端だ。」
双牙と呼ばれた橙色の武者は白凰たちに気づき、天鷹に話しかけた。

「こいつらは?」
「ん?・・・まぁ、そうだな・・・協力者・・・ってトコか?」

少し、天鷹の魂胆が読めた気がする。

町の港の近く。森林と海、そして城下町に囲まれた城。それが坐不都城。
剣刃隊の情報はすぐさまつたわり、主要な将は天守閣にあつめられていた。
「奴らが責めてくるとはな・・・言いがかりも甚だしい。」
「仕方ないでしょう。こうなれば武力で解決させていただくほかありません。」
「戦狼を送っておいた。まずは様子見といったところだな。」

巨大戦艦・・・天宮天使(あーくえんじぇる)近くに、坐不都の兵が現れる。
「・・・こちらも出陣じゃ。全隊士に伝えよ!!」
厳頭将の言葉に、剣刃隊の隊士たちが出撃する!!
戦いの火蓋は斬って落とされた。

両軍の兵が激しくぶつかり合う。

「堕ちたものだな!他所の国に戦をふっかけるとは!」
戦場に向かった四天犬士・・・戦狼が双牙に斬りかかる!しかし同じく双刀で受け止める!!
「貴様達が言えた事か!!よもや裏月の味方をするとはな!」
「何だと・・・!?」
力任せに戦狼は剣を振り切る。
「ふざけるなッ!我らを愚弄するか!
裏月などの味方などする筈が無い!」
「平気で嘘も付けるようになったか!」
両者の感情がぶつかり合う!

そのときだった。
戦場に黒い魔方陣が・・・いや、その上には札がある。
「・・・なんだ!?こいつらは・・・臣!?」
臣・・・いや。そこからでてきたものは、臣であって臣でなかった。
「グロロゥ・・・」
真っ黒な身体。まるで影のようなその式神・・・仮に、『臣兵士』(ジンアーミー)と名づけよう。
彼らの行動は、一つ。

無差別殺戮。
獣のごとき殺気を放ち、剣刃隊も坐不都も見境なく、手にした剣の錆にしていく。

「何だ!?こいつらは・・・!!」
「知らん!だが俺にもお前にも敵であるらしい!」

一方、天宮天使の内部。
謎の敵の出現に、慌てふためく解析班。
そして、その情報は司令室にも伝わっている。

「・・・以上です。」
補佐役が司令室の横の一室。総隊長の個室で報告した。
「・・・そうか。ところで君に話したいことがある。
 それと、美利を呼んでくれ。」
「はっ!」
補佐は部屋の外の部下に命じた。

「さて、と。
 話だが・・・」
厳頭将が刀を抜き、刀身を眺める。彼の長い話をするときの癖である。
「天宮の・・・頑駄無軍団は今・・・腐りきっているようなものだ。
我らに兵力を託しているからな。
それはつまり。我々がいなくなれば天宮の守りは薄くなるということだ。」
「・・・?一体何故こんなときに?」
「ところで、今回の・・・坐不都が裏月を匿っているという情報はそもそも。誰が齎した物だ?」
「・・・それは、確か総隊長殿・・・」
「おかしいと思うべきではないのか?
諜報部隊も知らぬような情報を総隊長が握っている。
しかもその情報だけで他国に侵略まがいのことをする・・・」
「・・・何を言っているのです!?」
「裏切り・・・
それを一番しない、そう思われる役職は何か解るかね?
隊士でも隊長でも諜報員でもない・・・」

「ククク・・・」
突然厳頭将が笑い出す。
「総隊ちょ・・・がはっ!」
近くにいた補佐役は床に倒れた。血が床に広がってゆく。
「失礼します・・・ッ!?」丁度刀を引き抜くタイミングで、美利が戸を開ける。
そして血のついた刀を引き抜いた厳頭将は、狂気に満ちた目で怯える美利をにらんだ。

「・・・!」
一瞬のうちにのど元に刃を突きつける厳頭将。
「動くなよ?小娘。」

「何事ですか!?・・・うッ!」
司令室に飛び込んできた隊士たちは驚愕する。
血にまみれた刀を美利に突きつけ、人質として捕まえている厳頭将。そして・・・

ズバァッ!!

隊士の体から血が吹き出る。

「・・・期は熟せり!!」
そう厳頭将が叫ぶと、司令室入り口のシャッターが騒音を立てて閉まる。
直後、司令室は非常脱出形態として、本体から切り離される!

その直後。
坐不都の城の真横にある高い砦。
その砦の外壁が崩れ落ちる・・・!

「何事じゃ!」
坐不都の城の中でも、老中が慌てふためく。
残り二人の武将は生憎出払っている。仕方なくそばにいた清空に叫ぶ。
「清空!!何が起こっ・・・」

老中の身体に刀の切っ先が走る。
そしてその瞬間。空間が削り取られるかのように、老中の身体は消えた。
真後ろにいる筈の天狼貴は物音すら立てない。

「・・・何が起こった・・・か。」

清空は不敵にほくそ笑む。

「決まっているだろう。革命だよ。もちろん。」


第18話:おわり


次回予告!

遂に動き出した裏月!
現れた『月蝕の塔』での決戦が始まる!
次回『鋼の鬼神が護りし門』
お楽しみに。