ここは天宮の港町。
白凰一行はもうすぐたどり着く、といったところか。

第17話:驚異と脅威の大海獣

「つっかれたー・・・」と真っ先に呟いたのは納徒。
「そういうなって!そろそろ着くぜ!お楽しみのトコ!」烈紅龍の励ましだ。
現在の目的地はとある港町。
そして海を渡った先にあるものこそ・・・坐不都の国・・・

距離的にはそこまで遠くはないのだが・・・かといって泳ぐわけにも行かない。というかさすがにそんな近くも無い。
もともと特異な体系である頑駄無族達はバランスを取るのが難しい、つまり泳げないものが多い!
そして今、泳げるのはと言うと清水のみなのだった・・・
「まあおれ達は武器飛遊板でいけるんだけどな!」

そんなやり取りはおいといて。
まあ当然出航を待つわけである。
ちなみに、坐不都までの道のりはなんと無料。
特に貿易が盛んなため、船が動くのは日常茶飯事。貿易船についでに乗るのが暗黙の了解なのだ。

その間に白凰は港をぶらついていた。
もちろんその肩には翼丸がのっている。
「・・・でよ。海獣がよ・・・」
・・・海獣。そう聞こえた。”怪獣”の聞き間違いでなければ。
白凰は足を止め、その話に耳を傾ける。

そんなこんなで時が過ぎ、出航時間だ。白凰も船着場に急いだ。
「あのっ・・・!」
彼を呼び止める声。
・・・楽妃がそこに立っている。
「あ・・・楽妃・・・ちゃん・・・!」
「坐不都の国に・・・行かれるのですね?」
「!」
楽妃は姫と言う立場を生かして情報を探ったことを話した。
「・・・うん。友達を助けたいんだ。」
「それなら・・・!」

「それなら、私も連れて行っていただけませんか!?」
楽妃の口から出たのは意外な言葉。
「・・・私は仮にも姫です!私がいれば異国と言っても・・・!」
「だめだ。」

「今から僕達は戦場に行くんだ。
 ・・・もし君が行ったら・・・危険すぎるよ・・・」

楽妃は思った。『この人こそ理想の夫』。
そして・・・
「わかりました。・・・でも・・・」
「・・・でも?」
「二つ・・・約束をしてください。」
「・・・約束って?」

「・・・一つは・・・絶対・・・無事で帰ってくることです!そして・・・もう一つは・・・」
楽妃は一呼吸あけた。
「・・・以前伝えた私の気持ち・・・帰ったときに絶対・・・お返事・・・下さることです!!」

白凰はうん。と笑顔でうなずいた。
「・・・ご武運をお祈りしております。」


一行はぞろぞろと船に乗り込んだ。
これで、あとは坐不都の国まで待っていれば良い。
といっても退屈なので暇つぶしにかかる。
・・・まあそこは皆子供。船の探検が始まるわけだった。

清水は後部甲板に出て、潮風を楽しんでいた。
後ろの方では納徒がはしゃぎまわっているが、まるで耳に入っていない。
この海の風景、なかなか悪くない。これで隣に白凰がいたら・・・と思う乙女心は当然かもしれない。
いっぽうの双子、烈紅龍はむしろ真逆だった。今いるのは船底。
貨物などがつまれた、倉庫のようなものである。
「・・・すげーな・・・やっぱ。」
しみじみつぶやいてみた。
「こら、小僧。」
「!!」
驚いて奥を見ると、なにやら誰かけだるそうに寝転がっている。
「あんま荷物に近づくなよ・・・ま、近づいても俺は何も関係ねーケド。」
かなりやる気の無い発言だ。
「・・・アンタも乗組員なのか?」
「んー?・・・俺は違ぇーよ。ただの暇人さ。」

なんというかこの船、現代日本にも無いような豪華な船だ。
そんなわけで、ロビーにでも相当する待合室に白凰はいた。
実は頭の中は楽妃のことでいっぱいだったりする。だが一応人々の話に耳を傾けてみる。
「・・・海獣・・・?」得られた情報は、『近頃この海域に海獣が出る』という噂。
・・・さっき聞いたよ。という不満は心の中にしまっておこう。

そういえば、もう一つ。とある海賊の話を聞いたが、おとぎ話だろう。

※ちなみに火燕丸は、船酔いで倒れている。

すこしたって、清水はふと、船の様子がおかしいことに気づいた。
「・・・あれ?この船・・・とまってない?」

「海獣が出たぞー!!」

ふいに誰かが叫んだ。
だんだん船内が騒がしくなる。
「はっくん!やっぱり・・・」
「・・・!!」急に白凰は黙る。
「な、なに?どうs
「清水と納徒と莉穏!甲板にいるって!」
急に大声を出したので、翼丸が肩から落ちかけた。
まず海獣が攻撃してくるのは、当然甲板だ。
白凰は伝説上の怪物・・・たとえば巨大なイカを連想し、甲板に駆けた!

「・・・海獣って・・・あれのこと?」
いっぽう甲板は、非常にしらけた空気に包まれていた。

そこにいたのは、そう。アイツだ。
いつかの河童。たしか河童或とかいった。

「ここは通さんッパ!」
と相変わらずの間抜けな声をだしている。

「なーにやってんのー?」
清水が甲板の上にでて、河童或に言った。
「ぬおっ!?お前はあんときの!!」
河童或の脳裏には、清水に吹っ飛ばされた瞬間・・・

「と、ととととにかくっ!ここから先は通さんッパ!ってか通っちゃダメッパァ!!」
大声で騒ぐ河童或。なにやら妙にあわてている。
「そんなこと言ったってみんな迷惑してるんだから!どかないってんならボク、力ずくで・・・」
「ああああっ!来たッパアアアア!!」
河童或がさわぐ。
なんだ?と海の方をみた清水のめに飛び込んできたものは・・・

「きゃわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???????」
気持ち悪い!!最初の感想はそれだった。
「ほらやっぱり!!誰でもそうなるッパああああ!!!」

船に迫ってきたタコの脚の生えたカニのような海獣は、確かに妙に気持ち悪い動きをしている。
しかも表面は変な光沢を放っている。
この海獣、名を『下流頭激(ゲルズゲー)』というが、まあそんなこと知る者はいなかった。

「清水!!」
白凰が甲板に駆け出す。そして下流頭激を見て悲鳴を(以下省略
「とにかくこのままじゃ船が沈んじゃうよ!!どうにかしないと!」
清水がさくっと状況説明。

「・・・とりあえず・・・王怒桜輝招来!!」「凰翼着装!!
2人はひとまず鎧を装着した・・・!

ドオオオン!!
数分後、船底にも轟音が響き渡った。
「なんだなんだ!?」
思わず烈紅龍も飛び上がる。
「・・・攻撃されてる・・・ってか?」
碇臨丸がけだるく言った。

「・・・っ・・・駄目だ!!ぜんぜん効いてない!!」
白凰が斬影丸の真空刃で下流頭激に攻撃する・・・も、ぬめった甲羅は異様に硬く、
船に絡みついた足もまったく動こうとしない。
「どいて!白凰!!」
清水が船の上でおもむろに右手をかざす。
そこに光が集まり、一本の剣が現れた!!
これこそ清水の武装、流輪剣(リュウリンケン)!!
「水翼形態(アクウィングモード)!」流輪剣が背中に装着される!そして清水は空に飛び上がった。
「飛べたの!?」
能力がかぶった白凰は結構残念だ。

「ボクにとっても海はホームグラウンドなのッ!・・・いっけー!渦巻上昇撃(スピニングライザー)!!」
清水が刀を振り上げると海の水が渦となり、下流頭激を・・・
「ちょっと待ったー!!」
とっさに白凰が叫んだ。

「そんな大技じゃ船ごと・・・!!」
「あ。」
渦巻きを急に引っ込める清水。
「オイ!早く倒さんと船がヤバイッパ!!」

大騒ぎの船内。
荷物を抱えて船から飛び出そうとする乗客もいる。
「くっそ・・・!外はどうなってるんだよ・・・!!」
ロビーに出た烈紅龍。
中は人で溢れかえり、とても甲板まで出ることなど叶わない。
「白兄ちゃんたち大丈夫か!?」
「・・・怖いよ・・・ッ!」
納徒と莉穏もなす術なし。中のものは皆、軽く絶体絶命、と言ったところだ。


「さてと・・・そろそろ出番かね。」


騒然となる船で放たれた言葉の主は・・・そう。碇臨丸だった。
「おいオッサン!なにか手があるのか?」
烈紅龍の必死の声に半分無視で彼は語る。
「坊主。こんな海賊の話・・・聞いたことあるか?」
「・・・は?」

「その昔・・・ものすごい力を持った海賊がいたんだ。
 彼は力に溺れ、いくつもの罪を重ねてね・・・
 そして戦いに敗れ右目を失って・・・流れ着いたある町で人の心に触れて・・・
 いまではその町の船を守ってる・・・そんな海賊の噂さ。」

「・・・もしかして・・・オッサン・・・」

碇臨丸はゆっくりと立ち上がる。そして頭の包帯を、ゆっくりと解いた。

そこにあったのは、失われた右目の代わりに収まった、王怒桜輝結晶!
「坊主!ついて来い!俺がこの局面、ひっくり返してやるぜ!!」

「王怒桜輝・・・招来ッ!!」彼が叫ぶと、一瞬、水色の光が発せられる!
そしてそこに見えたのは、白い、海賊の如き鎧!!

外側に巻きついた触手に船はどんどん締め付けられている。
このままでは壊れるまで1分と無い。船の強度は限界だ。

メキ・・・メキメキ・・・!!


不気味な音。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
恐怖に耐え切れなくなった客の悲鳴が響く!
しかしそこに一筋の希望が!!

海に突如、眩い光の柱が立った!!
そこに現れたのは・・・巨大な海賊船!!

烈紅龍は見ていた。だが理解できなかった。
碇臨丸が突如海に飛び込み、何かを叫んだ。そこから出る結論は・・・

「まさか・・・あの船自体が・・・風突飛装備!?」
現れた船の選手に乗っていた碇臨丸はにかっ!と笑うと、自信満々に言う。
「そうだぜッ!こいつが俺様の風突飛装備・・・鮫臨丸(コウリンマル)よぉッ!!

「凄過ぎだろ・・・あれ!」
「まじ・・・かよっ!かっけ−−!」
驚く烈紅龍をよそに、納徒は叫んだ。

その様子に満足した様子の碇臨丸だが、さらに言い放つ。
「この程度で驚いてるようじゃまだまだだなッ!久々に行くぜぇ!
王努桜輝開放ッッッッ!!!!!
大戦鎧鮫臨王ッッッ
(ギガントメイル こうりんおう)!!

碇臨丸が耳をつんざく大声で叫ぶと、なんとその船はパーツごとに分解!!
そして変形し、波を立てながら、立ち上がる!!

機動武者ァーーーーー!!!???

そこにいる人々が全員、そう叫んだ。しかもキレイにそろって。

「行くぜぇ!!」
と叫んだ後。下流頭激につかみかかり、触手を無理やり引き剥がす。
そしてそのまま後方へ投げ飛ばすッ!!

「まだまだぁ!!全砲門開けぇーーー!!
彼が叫ぶと、体中の砲門が一斉に出てくる!!
撃ち方始めー!!

ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!

海に投げ飛ばされた下流頭激にさらに集中砲火!!
・・・ついに甲羅にヒビが入った!

「嬢ちゃん!後はアンタが決めな!!」

指名されて一瞬戸惑った清水だが、今度は逆に、「腕突き出してッ!」と指示し返した。
「・・・お、おう!?」
鮫臨王の腕が下流頭激に向けられ、清水がその先端に飛び乗った。

「王怒桜輝開放!!」
清水の翼が、今度は弓に変形する!
そして近くの海の水が吸い寄せられ、弓矢の形になり、弓に番えられた。
弓をググッ、と引き絞り、下流頭激のヒビを狙う!

「王怒桜輝奥義・・・!!
津流波動弓(スプラッシュアロー)ーーーッ!!

放たれた水の矢はヒビの入った甲羅に見事命中!!
さらにそれだけではあきたらずか、そのまま思いっきり下流頭激を貫通した!!!

「あの小娘もかなりのやり手・・・ってうおっ!?」
下流頭激の近くにいた河童或は悪寒を感じた。その次の瞬間!

なんでッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・」

派手に爆発した下流頭激!
そして巻き込まれて空の彼方に飛んでゆく河童或!!
いろいろ凄い光景だった。
「撃!砕々・・・ってね!」
「なんで清水が知ってるの・・・」

一件落着し、白凰たちは坐不都の港町に到着した。
張り詰めた空気の中、一行に碇臨丸が手を振った。

・・・海の上空。とある影があった。
「やべーな、追いつけるか・・・?」
そんなひとりごとをつぶやきつつ、は空を急いだ。

第17話:おわり


次回予告!
白凰たちは遂に坐不都の国に到着!
そこへやってきた剣刃隊!?そして衝撃の事実!
「決戦の地、兄弟の血」
おたのしみに!


オマケノヒトリゴト

次回はあの人が・・・