天宮にそびえる山、「於雄得山」のふもと・・・
そこの茶屋に、ある旅の一行が到着した。
と、こう書くと白凰たちが出てくるのだが、今回は違った。
店の前にある椅子に座り、お茶をすすりはじめる。
「・・・はぁ・・・」女性特有の高い声。
「楽妃(ラッキ)さま・・・」隣から、付き人のような雰囲気の老人が話し掛ける。
「じぃ、私はあの中から婿は選びませんよ。」楽妃と呼ばれた少女が返した。
「ですが・・・早くあなた様に花婿を持って頂かないと・・・」
そういわれた楽妃は、また大きくため息をつき、つぶやいた。
「はぁ・・・私の旦那様になる殿方・・・運命の人はどこにいるのでしょう・・・」

第十話:脅威の医師とお姫様

さて、こちらは白凰達一行。
於雄得山を間近に見ながら、ふもとの茶屋に向かっていた・・・。

「ふむ・・・やはりラクロアには無い植物が多いな・・・」
火燕丸が木々を見ながら呟く。
「へぇ・・・ラクロア、柚子(ゆず)無いの?」
白凰が目を丸くして聞いた。
「ゆず・・・というのか・・・」手を伸ばし、柚子の実を採る。
「・・・いい香りだ・・・檸檬に似ているな・・・」
「・・・れもん・・・?」
「ああ、ラクロアにある果物だ・・・かなり酸味が多いがな。」
「へぇ・・・柚子も結構すっぱいけどね・・・
・・・?」烈紅龍の方を不思議そうに見る。
「どうしたんだ?烈紅龍、いやに歩きが遅いな・・・」
「あ、ああ・・・ちょっとな・・・」

そんな会話をしていると、早くもふもとの茶店についた。
店内には、茶屋の老婆と、客が一人。
奥の座敷に座る三人。

「・・・これは・・・なんだ・・・?」
火燕丸が団子を見て白凰に聞いた。
「え・・・?だ、団子って言う食べ物だけど・・・」
「うまいんだぜ!」烈紅龍が、団子をおいしそうに食べて見せた。
「・・・ん!おお!これは・・・うん!」火燕丸も気に入った様子だ。

「そういえば烈紅龍さ、さっきどうしたの・・・?」白凰が言う。
「・・・ん?・・・なんかな、最近気分がだるくて・・・」
「どうかしたか?」
「わかんねぇんだよ・・・なんか妙に歩くのが辛いん・・・」そう言い掛けると!

「そこの少年!」
「へ?俺!?」
店の奥で休んでいた旅人が、烈紅龍に突然話し掛ける。
「悪いが聞かせてもらったよ、だるくて歩くのが辛いんだな?」
「え・・・?ああ・・・」
「何か刃物で斬られたな・・・?」
「え・・・あんた一体・・・」
「どうなんだ・・・?」

「あ、確か忍者にこの前、俺だけ刀で・・・」
「そうか・・・」その人は懐から包みを出し、その中から、丸薬を差し出した。
「これは・・・?」
「俺の作った水なしで飲める丸薬さ、今の君の体内の毒を分解できる、ね。」
「・・・・・・・」烈紅龍はいかにも怪しいその男を見つめた。
「・・・!あ、そんなに警戒するな、俺は翁勉(オウベン)、これでも医者だ。」

「・・・ま、いいか。」烈紅龍は、ポイっと、口の中に薬を放り込んだ。
「・・・モグリのな・・・」付け足すように翁勉が呟いた。
「ゴホッ!ゴホッ!」烈紅龍が咳き込んだ。
「ははは!冗談!、本物だ!名医だぜー?」
「死ぬかと思っ・・・あれ、なんか体が軽いぞ・・・?」
「ん、効果がでたっぽいな。」
「ありがとよ!」
「ん」翁勉が手をさし出す。
「ん?」
「薬代、203両」彼の口からはとんでもない大金が。
「何ィ!?そんな大金もってねぇよ!」
「・・・冗談だよ。」
「なんだよ・・・冗談きついおっさんだなぁ・・・」
「おっさんだと?やっぱ203両だ!」

さて、そんなこんなで時間が過ぎ、そろそろ於雄得山に登ろうという時、
「さて、と、ごちそうさまでした。」と、店の前にいた楽妃が立ち上がった。
「・・・さて、僕らも行こうか。」
「そうだな。」と、白凰たちも店を出ようとした、その時。

「キャー!!」
「おい!有り金全部だしな!」と、何だかまた何処かで聞いたような声。
やはり橙盗丸だ、しかも襲われているのは楽妃。
「楽妃様ー!」老人が駆けつける。
「なんだジジイ!どいてろ!俺はそこの嬢ちゃんに用があるんだ!」

「あ、やっぱり橙盗丸!」白凰が店を出て、橙盗丸を見つけた。
「なっ!?あんときのガキ!?」確かこいつ、この前もこんな事言ってたような・・・
「おっし!標的変更だぁ!今度こそテメェを殺す!野郎ども!」
「何ですかァ兄貴ィ」と、二人の山賊風の、なんとなく頭の悪そうな男達が出てきた。

「・・・・・・・・(た、たすかりましたわ・・・)・・・」と楽妃は、息をつく。
「かかれぇ!」と、橙盗丸が二人に指令を出す!
「わかったぁ、兄貴ィ!」二人が白凰にとびかかる!が!

キイイイィィィン!ガション!!

と大きな音をたて、何かが着地した。
「あ・・・・・・」白凰の動きが止まる。
「な、なんだぁ・・・?って、今だ!おめぇら・・・って、ええ!?」
さっきの子分二人は、着地時の突風に吹き飛ばされ、気を失っていた。
「・・・紅牙・・・!」白凰がやっと口を開く。
「・・・お前は確か・・・白凰頑駄無・・・だったな・・・」
そこにいるのは、紛れも無い、紅牙頑駄無だった。
「・・・お前に恨みは無い、だが・・・上からの命令だ、消えてもらう、仲間もな!」
紅牙は腕小刀を展開し、白凰に襲い掛かる!
「わっ!」白凰はとっさに横に避ける。
「かわしたか・・・」紅牙は白凰を睨みつける。
「い、一体どうしちゃったんだ!紅牙!」
「うるさい!貴様に気安く呼ばれる覚えは無い!!」
「な・・・!?」
「鎧を着けたらどうだ!・・・それとも・・・逃げ回るだけでボクに勝てるとでも!?」
「くっ・・・」白凰はためらいながらも呪文を唱える。

「王努桜輝招来!」
「そうだ!それじゃなきゃ倒しがいがない!」
紅牙は再び加速し、攻撃を仕掛ける!
「うわっ!」とっさに翼刃丸で防ぐ白凰。
「フン!やはり一筋縄では行かないな・・・ならばッ!」
紅牙は何かを取り出した、まるで水晶。
「まさかッ!」
「そうさ!これを使ってみるとしよう!」

『王努桜輝招来!!』

「・・・なんだ?」
呪文を唱えた紅牙だが、なぜか何も変わらない。
「・・・?そういうことか・・・」紅牙は何かを悟ったように、手を横に出した。
そこには光が集まり、二振りの刀のように形が変わる。
「か、刀・・・?」白凰は信じられなそうに言った。
「そうさ!これがボクの湾曲刀(ショーテル)の装備!曲斬道(キョクザンドウ)だ!いくぞ!」
曲斬道を振りかざし、紅牙が走りこむ!

「あいつは!」店からとびだした烈紅龍が紅牙を見つけた。
「・・・ん?鉄器武者じゃねぇか?」一緒に翁勉も出てきた。
「・・・(あの形・・・あの駆動系配置・・・まさか・・・匠(ショウ)か・・・?)・・・」
翁勉は黙り込んで考え始めた。

「せやぁ!」紅牙が曲斬道を白凰に振付けた。
「横!?」横からの斬撃に、刀を立てて防御する白凰、しかし・・・

キィン!

「え・・・!?」
翼刃丸は弾き飛ばされる。
「どうした・・・?白凰頑駄無!」
紅牙が剣を引いたのだ、湾曲刀の形を利用し、刀を弾くために。
「そら!もう一発!」
紅牙が剣をまた振る、しかし・・・

カキン!

「な・・・に・・・?」紅牙の曲斬道が弾き返される。
「よけるのは簡単だよ・・・引かれる前に弾けばいい。」
白凰はすぐさま攻撃の弱点を見抜いたのだった。
「フフフ・・・ハハハ!!それでこそ戦いがいのあるというもの!
だが!これはかわせるか!?」
紅牙は曲斬道を合体させる、それはまるで・・・
「こういう使い方も出来るんだ!!」
そう言った後、それを投げつける紅牙!
「ど、どこを狙って・・・」全く的外れな方向に飛ぶ曲斬道!しかし!!

ビュッ!!

「え・・・?」
曲斬道は、弧を描き戻ってきたのだった!
「戦輪のようにもなるんでね・・・」
「戦輪・・・!?」

戦輪とは、○装練○や忍た○○太郎を呼んだことがある方はご存知かもしれないが、
円盤型の投てき武器だ、回転させて投げる事により、ブーメランのような軌跡を描くのだ。

「もう一回だ!!」また投げる紅牙!
「わっ!?」
「はずした!?」今度はギリギリでよける、しかし、その刀は・・・
「え!?」後ろで腰を抜かす楽妃の元に!!
「あぶない!!」白凰は叫ぶ、しかし・・・
「あ・・・あ・・・」動けない楽妃は逃げる事も出来なかった!!

ザシュッ・・・!!

「え・・・?」
それを止めたのは白凰だった。

肩鎧に直撃し、鎧が砕ける。
「けが・・・ない・・・?」
「え、は、はい・・・」

「って・・・いまだ!!」存在を忘れられていた橙盗丸が白凰に襲い掛かる!
「おいおい・・・そこまで、だ。」
誰よりも早く、橙盗丸の動きを止めたのは、翁勉だった。
「何もんだ・・・テメェ・・・」
「おっと、動くと首が飛ぶぜ?」
橙盗丸の首には、糸が引っかかる。
「な・・・」
「縫合用の糸だ」
「って、斬りゃいいだろうが!!」橙盗丸は斧で糸を斬る。
「こうなりゃ仲間だけでも!」烈紅龍の方に向かう、しかし・・・
「あれ・・・?」急に動きが鈍くなる。
「麻酔、だよ。」
「あと、しつこいんだよ!!」
烈紅龍が思いっきり橙盗丸を蹴り飛ばす!!
「へぶッ!・・・俺は蹴鞠の球かァァァ・・・!!」といいながら、空の彼方へ飛んでいった。

「さて・・・そっちの鉄器さんにも治療が必要かい?」
紅牙の方を振り向く。

「くっ・・・黙れぇ!!」
曲斬道を投げようとする紅牙、しかし!!
「やめて・・・紅牙!!」
「ぬぅっ!」
白凰が、紅牙の腕を止める。
「貴様だ・・・」
「・・・!?」
「貴様がボクを狂わすんだ!!貴様さえいなくなッ・・・!グ・・・ァ・・・」
「紅牙!?」
紅牙が急に頭を抱えて苦しみだす。
「・・・は・・・ク・・・凰・・・!」
「紅牙!?元に戻ってる!?」
「一時的だ・・・が・・・こいつを止めらレ・・・タ・・・」
「しっかりして・・・!」

「オオエ山・・・・・・ツバマル・・・が・・・ケガ・・・」
「翼丸!?」
翼丸は白凰が飼っていた小鳥だ。
「テングニキヲツケロ・・・ぐッ・・・」
また紅牙が苦しみだす。
「・・・くそっ!まただ・・・!ツギダ・・・!つぎこそ・・・キサマヲコロシテやる!!」
そう叫び、背中の翼が開いた。
「コンカイはおアずけダ!!・・・邪マが入ったかラナ・・・!!」
そして、大空へ舞うように飛び立っていった。

「ほう・・・ありゃ、無理やり心得を書き換えられたな。」
翁勉が呟いた。
「え・・・?わかるの・・・?」
白凰が食いつく。
「ああ、まぁ、な、」
「あんた一体・・・」
烈紅龍が不思議そうに言った。
「ん・・・おっと、もうしおくれた。
俺は翁勉・・・剣刃隊医療部隊長、翁勉頑駄無だ!じゃあな!」

「剣刃隊!?」
「しかも隊長かよ!?」
歩き去る翁勉の背に叫ぶ白凰たち。
その後ろから白凰をポーっと見つめる楽妃。
「楽妃様!お怪我はありませんか・・・って、どうしました?」
「あのかたこそ・・・」
心配する老人をよそに、楽妃は呟く
「あの方こそ・・・私の理想の方!運命の方ですわ!」

「おーい、白凰!そろそろ於雄得山に登らないと!」
火燕丸が呼びかけた。
「・・・わかった、於雄得山にも少し用事が出来たみたい・・・だよ。」
多分翼丸のことを言っているのだろう。

「白凰様・・・素敵なお名前・・・」
楽妃は白凰を見つめている、自分の世界に浸ってしまっているようだ。
「あの、楽妃様・・・?」
「じぃ、決めましたわ、あの方こそ、私の運命の人です!」
「はい!?あの方って、さっき楽妃様を助けた・・・あの少年ですか・・・?」
「ええ、あそこにいます・・・って、あら?」
楽妃が指差す方向に、もう白凰はいなかった。
「もう!じぃ、追いかけますわ!」
「はぁ!?」
そういうのが先か、楽妃は山道に駆けていった。
「ええ!?待って下さい、楽妃様!姫様!!楽妃姫ェー!!」
それを聞いた茶屋の客は茶を噴き出し、店主の老婆は手にした茶碗をひっくり返した。

楽妃姫は現天宮のリーダーの一人娘だったのだ!
つまり、時期大将軍の奥方、である。

挫不都と翼丸を目指し、於雄得山を登り始める白凰たち、そして白凰を追う姫様、楽妃!
この旅はどうなる事やら・・・


第十話:おわり

次回予告!
於雄得山を登る白凰たちの前に、突如現れた謎の男、天海丸!
翼丸の行方は?天海丸の正体は?そして、於雄得山の妖怪が姿をあらわす!

次回!「王努桜輝進化!大妖怪!」
お楽しみに