前回、トリンガーたちによって救われた女性。
彼女が駅を離れ、人気のないエリアで帽子をとった時、一行にはたとえようのない衝撃が走った。

「申し遅れちゃったね!私は・・・」



「御莉夢 陽狐・・・ぉおおおおおお!!???」

Stage7:IllusionMusiam〜幻惑の博物館〜

本人だ。間違いない。自分で名乗ったし何より、この決めポーズ。
「よっ・・・よよよよよよ!!???」
ユウナの舌は全く機能しなくなっていた。その横で陽狐に見とれて機能しないトリンガーを
ストークが怪訝な顔でみつめる。

「で、そのアイドルがなんでこんなところにいるの?」
若干とげのある言い方。ストークの機嫌はちょっと傾いている。

「・・・うーん、まぁ、助けてもらって秘密なのも筋が通らないし、教えてあげる。
 簡単な話だよ。私の家がこっちのほうだから。」

「家・・・?でも、ここって・・・」
そう。このエリアは周辺と比べて一番の田舎。

「ま、公開はしてないから知らないのが当り前だろうけど、私の家、この町にあるのよ。
 見たら驚くよ?」

驚くとは・・・そんなに古いのか、はたまた・・・
「よかったら送って行くぜ?もう暗くなってるしな。」
トリンガーがやっと再起動した。がストークに睨まれている。

田舎道を抜けて、陽狐が向かった先には、少し古びた博物館があった。
「ついたついた!ここよ!」
何の躊躇もなく裏口の戸をあける陽狐。
「え・・・でも、ここって・・・」
「だーかーらー。ここがあたしの家。」
一向は顔を見合わせた。
私生活が謎に包まれているタレントではあるが・・・

(私生活自体が不思議だ・・・!!)
一向は全員、心が通じ合った。


「いろいろあって公表してないけどね。この博物館は私のもの。
 さ、あがって。」
「え、でも・・・」
「どのみち、もう暗いし、もと来た道を戻るのも危ないから。
 さっき助けてもらったせめてものお礼よ。」

言われるがまま、一向は博物館内へと入って行った。

「私のおじいちゃんが家を改造して、博物館を作ってね。それ以来一族でここを管理してるの。
 今は人を雇って管理してもらってるんだろうけどね・・・」
先ほどの裏口から通じていたのは、博物館の一角の、居住スペースだった。

「この近くにはホテルもないし・・・居間でよかったら泊って行って。」
「気持ちは嬉しいんだけど・・・」
「遠慮しないで。どのみち・・・一人じゃさびしいから・・・ね。」

「そうね・・・とりあえず、布団を探してくるからしばらく待っててもらえるかな?」
「あ、それだったらあたしも手伝・・・」
「気持ちはありがたいけど、企業秘密よ。お客様に悪いわ。」
口の前に人差し指。秘密、とでも言いたげだ。

「・・・そうだ!閉館時間の後の貸し切り博物館、試してみない?」

そんなわけで、現在ユウナは博物館内を探索している。
ここの博物館は常に照明が付いている設計のようだ。

「そういえば・・・トリンガーたちは・・・?」
トリンガーとストークが近くにいない。どこかではぐれたのだろうか。

二人を捜すうちに、見覚えのないエリアに入っていた。
おそらく、今さっきくぐった扉だ。ひとつ間違えた。

戻ろうと思ったが、目の前のモノが、足にそう、させなかった・・・

「これ・・・もしかして・・・」

「見覚えがある・・・当然でしょう。」
若干ノイズの混じった、しかし聴いた声がする。

「・・・ま・・・さか・・・どうして・・・!?」
四角い体、そしてこの声。
忘れるはずがない。しかし、ここにいるはずもない。
「ダン・・・ボック・・・ス・・・!!」

シリンダータウンの地下で、トリンガーを手に入れるためにユウナを襲ったガンドロイドだ。
ただ・・・
「トリンガーに・・・やられたはずじゃ・・・!?」
「戻ってきたのですよ。地獄の淵からね。いや、正確には・・・」

「あなたが入ってきたのです。冥界へ・・・ね。
 あの扉をくぐって・・・我々を呼び起こした。」

扉・・・さっき、このエリアに入るときにくぐった扉だ。
「い・・・意味わかんない・・・!」

「このエリアは本来・・・この博物館には存在しないのですよ。
 なぜなら、ここは・・・



死霊のさまよう、失われた空間だから・・・」


「・・・ッ!!」
周囲に気配を感じる。囲まれている。
半壊したウォーリーがゆっくりとこちらに近づいてくる。

「い・・・いや・・・!!」

異様な雰囲気の生み出す恐怖に耐えきれず、その場を逃げ出そうとするユウナ。
だが・・・

「どこへ行くんだぎゃぁ・・・?」

目の前に現れたのは・・・砂漠で出会ったガンドロイド、シュザープスター。
ただし触角とはさみが片方かけている。

「折角です。復讐をさせていただきますよ。一人づつ・・・」

壁に追い詰められ、なす術なく地べたにへたり込む。

「泣いたって・・・誰も助けにはこないだぎゃ・・・ヒヒ・・・ヒヒヒ・・・!!」



「それはどうかな?」

「ッ・・・誰だ!?」
ダンボックスが周囲を見回すが、誰もいない。
しかし声はする。少年のような声だ。
「悪趣味な奴だよ。こんなとこで女の子囲んで泣かせるなんてさ。」

この声・・・聴いたことがある。
今日、電車の屋根の上でも聴いた。

「この声・・・は・・・ウガッ!!??」

「!!」

次の瞬間、目の前にいたダンボックスが崩れ落ちる。
正確に言うと、左右に分かれて開き倒れた。

この切れ味の鋭さ、見覚えがある。
この目にも止まらに早さにも見おぼえがある。

そして・・・斜めに切断されたシュザープスターの体が床にたたきつけられたと同時に、
その記憶は確信へと変わる。

目の前で、私を助けてくれた青い影・・・


「お盆はまだだよ。さっさと帰りなよ。」

レイドだ。



時を同じくして、博物館の屋根の上に、黒い影が2つ、揺らいでいた。
「あまり感心しないな。このやり方は・・・」
両脇に巨大な歯車をつけた、その影は、どこか聴いたことのある声でつぶやく。
「そこは私の趣味です。文句は言わせません。
 それより・・・あの時の約束、お忘れなく・・・」
もう一つの影も、同じくどこかで聴いたことのある声で呟き、手の鎌を光らせた・・・