「はっ・・・!はっ・・・」
トラックに追いかけられる少女。
少女といっても顔立ちは少しだけ大人びている。
トラックについては、軍用トラック、というイメージを描いていただければ間違いないだろう。
巧みにトラックの追跡をかわす。
町外れなので人はほぼ居ない。少女にとっては非常に不都合である。

時は近未来。よりもさらに、さらに未来。
機械が発達し、人とロボットが共同生活を営む世界。
戦闘用ロボットは『ガンドロイド』の名を与えられた、戦争の傷跡がいえつつある世界。


人はここをガンマディメンションと呼ぶ。



Stage1:Silinder Town -はじまりの町-


ふぅ、と壁にもたれかかり一息つく。
少女の名は『ユウナ』。長い後ろ髪を桃色のリボンで結んでいるが、もっとも人の目をひきつけるのは
前後の白髪だろう。ただ、この世界ではこのような髪色はべつに珍しいものではない。



「はぁっ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」
物陰に隠れて難を逃れる。
なぜ、自分がこうなるのか。どう考えても解らない。
(なんであたしがこんな目に・・・)
不安に押され、首から提げた大きなペンダントを眺める。亡くなった祖母の形見だ。
金のレリーフに緑色の宝石が埋め込まれている。
たしか、祖母はまた、祖父にもらったのだと言っていたが・・・

ガシュゥン

機械的な足音。
左右から。ゆっくり近づいてくる。
ちらっ、と様子をうかがう。・・・ガンドロイドだ。
さっき一瞬見えた、トラックに乗っていたガンドロイド。

息も絶え絶えになりながら、再び走り出す。
周辺には旧時代の廃墟。町の人はまず近づかないような「まさに廃墟」だ。
あてもなく逃げ続けるよりマシだろう。という考えがあったのかはわからないが
半開きになった家屋の中に逃げ込んだ。
むせるようなカビとサビの匂いがたちこめるが、構っている暇は、ない。

・・・しばらく待つ。不気味なほど静かだが、どうやら撒いた・・・のだろうか。
落ち着いて周囲を見てみる。夢中で逃げたせいか、だいぶ奥まで入ってしまったらしい。

ふと、足元に落ちたボロボロのリングファイルに目を落とす。
「・・・・・・!?」
記名欄。それを書いたものの名に見覚えがある。

「お・・・おじいちゃん・・・!?」
ユウナが生まれるまえに死んでしまった、祖父の名。
祖母からの思い出話でしか知らない、その名と同姓同名の文字。
・・・というより、間違いない。本人だ。

ふ、と顔を上げると、目の前にあったものが壁ではなく、扉だったことに気づいた。
扉の横にあるタッチ式カードリーダーがかすかに光っていることでそれに気づいたわけだが・・・

光っている。と、いうことは・・・
電気はまだ、通っているらしい。

「まさか・・・でき過ぎ・・・だよね?」

リーダーには、刻まれていたのだ。
祖父の、そして祖母の形見である、このペンダントと
同じマークが・・・


その「まさか」通りの展開だった。
ペンダントを近づけた時、リーダーから古臭い認識音が鳴り・・・
錆びついた音とともに扉が開く。


・・・そこには、まるで巨大な基地のような、いや研究施設といったほうが正しいのか。
はたまた機械の鍾乳洞とでも言うような空間が広がっていた。


真正面にはカプセルのような大きな機械。
その前面には簡単な祭壇があった。


「ご案内・・・ご苦労様。」

暗がりの中から誰かの声。

「玖瀧博士の孫娘・・・優菜さん?」
それは丁度箱を重ねたような感じの中型ガンドロイド。
ユウナを追っていたガンドロイド。名は『ダンボックス』である。


彼は続ける。
「・・・さて。そこに眠っている彼の・・・赤鬼の鍵はどこです?」

「な・・・何よソレ・・・!?そんなのあたし知らな・・・」
状況がさっぱり理解できない。
「赤鬼」というキーワードに聞き覚えはあったが・・・


・・・ゴッ!!


右目があけられない。
顔が痛い。アタマも。口の中にはかすかに鉄の味が広がっていく。

何が起こったのかわからなかった。しかし、かすかに聞こえるダンボックスの声で少し理解する。

「あいにくフェミニストではないのでね。」
次の瞬間、身体が持ち上がる。髪が引っ張られる感じ・・・
「さて・・・それではいただきますよ・・・。」
ブチッ!
首元から聞こえた音。”ペンダント”がちぎられたらしい。
「ふむ・・・おそらくこの中ですねぇ・・・」

「仕方ない。壊すか。」
その言葉に冷たさと、あからさまな悪意を感じる。

ピキッ・・


「・・・や・・・め・・・ッ・・・ふ・・・ぎぁッ!」

「お前いわゆる『バカ』だろう?人間が我々にかなうとでも思ってるのか?」
伸ばした手に重いものが叩き付けられる。

「・・・っ!ーーーーーーーーー!!」
声にならない叫びを上げる。
手の上にのしかかった『足』は手をすりつぶそうとでもしているかのようだ。
「私は人間ってのが嫌いなんだ。貧弱で、武器もないくせに強がる。」

度重なる激痛に、意識は朦朧としている。
「・・・だが感謝しろ・・・?記念すべき最初の犠牲者にしてやる。『赤鬼』の・・・な。」

ダンボックスの手が開く。バラバラ・・・砕けた欠片と共に金属音が。
「う・・・あ・・・」自然に、無意識に。眼からぽとぽとと涙がこぼれる。

ダンボックスは祭壇のような物・・・『赤鬼』が封印されたカプセルに近づいていく。
手前ほどの”鍵穴”に”カギ”を差し込んだ。
「さあ、目覚めなさい!赤鬼・・・いや究極兵器・・・銃魔王一号機・・・トリンガー!」 

パシュウ・・・・・・・・・・・・

カプセルが膨らむ。いや、膨らんだように見えるが、表面のカバーがスライドしたのだ。

そして、次の瞬間、煙のようなモヤとともに・・・

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!
カプセルから飛び出したのは大量の弾丸。
そののち、穴だらけになった正面カバーが蹴り飛ばされ、
カプセルが崩れ落ちる。そして中から何かが歩み出てくる。



ユウナはそのただならぬ気配を感じ取る。(コイツに殺されちゃうんだ・・・あたし・・・)
赤鬼・・・いや、トリンガーと呼ばれたそれを焦点の定まらない目で眺めた。
赤い体に頭のツノ。赤鬼とは言い難いが、そんなことはもはや、関係ないか・・・

「・・・すばらしい・・・!さあ!生贄はそろっている!あなたの力をためさせ・・・」

「・・・の前に。・・・オレの嫌いなもん・・・三つ教えてやる。」
狂気に満ちたダンボックスの言葉を、あっさり一蹴したトリンガー。
「なに・・・?」

仁王立ちに腕組みで、トリンガーは語り始める。

「一つ目。弱い相手に大勢でかかるような卑怯者・・・」

「二つ目。えらそーにふんぞり返ってる奴・・・」

ユウナは「何か」を感じる。どこか聞き覚えのある声。

「そして・・・三つ目。」


「女を平気で殴れる野郎・・・!!」

「不安」はいつの間にか消えていた。代わりに何か暖かいもの・・・昔、どこかで感じたような、安心感・・・

「何より個人的に気に入らねえ。俺の力を見せろ、とか言ってたな?」
そして、ダンボックスらをにらみつける。
「・・・手前の身で解らせてやるぜ。ふんぞりかえってるだけじゃーないんなら・・・掛かって来いよ!!」

「ああ・・・いいでしょう!少々痛い目にあってもらおうか!」」ダンボックスの肩ハッチが開き、ミサイルが放出される。
全てはトリンガーに向かって飛ぶ。・・・が。


発射された数多のミサイルよりも早く、一気にダンボックスの正面に飛びかかるトリンガー。
と、同時に引いた拳を突出し、顔面に拳を叩き込む。

トリンガーのパンチで大きく吹き飛ばされたダンボックス。
「まず一発!ソイツの代理で返す!!」

どうにか体勢を立て直し、トリンガーに飛びかかるダンボックス。
だが、それをアッパーで殴り飛ばしたトリンガーは、口元をゆがめて子供のようにニヤッ、と笑う。

「お前いわゆる『バカ』だろ?」
トリンガーの腕が変形し、ひじにあったガトリング砲が腕に移動した。
「テメーごときがぁ!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

砲身の回転とけたたましい銃声とともに、ガトリングから弾丸が発射される。
宙に浮いたダンボックスの体に、腕に、足に。弾丸が突き刺さり、貫く。
動力炉に銃弾が突き刺さり、全身に電気が走る、そして・・・爆発が起こった。

「俺に敵うはずねぇだろぅが。」

・・・薄れ行く意識の中、ユウナは赤鬼を見ていた。
そして彼女が目覚めたのは・・・三日後の病院、ベッドの上・・・。

「・・・!ここはっ!?」
がばっ!と布団を蹴り飛ばし、起き上がる。
・・・まるで今までの体験は夢のようだ。だが身体の傷が夢でないことを証明している。
トリンガーは・・・見回してもいない。
「・・・どっか・・・いっちゃったのかな・・・」

ふと、窓の外を見る。いかにも、という感じのチンピラ風の男が通行人に肩をぶつけた瞬間を見てしまった。
普通なら眼をそらすが・・・それどこではない。
ぶつけっれた方は・・・真っ赤なボディーに一本の角。それはもちろん・・・

「オレにケンカうるたぁ・・・俺の嫌いなもん3つ・・・身体で教えてやらぁッ!」


ユウナは、自然といきなり、目の前が真っ白になり・・・気絶した。


つづきますか?




NextStage...

灼熱の砂漠を駆け抜けるトリンガーの前に現れた次の刺客は・・・エビ?
そして現れる謎の機械銃士の正体は・・・!?