某日某時刻、いうなれば昼下がり。
家事をすませてうたた寝をする少女がひとり。

巫女装束を思わせる配色の和服にさらさらとした金髪の彼女だが
最も目を引き付けるのは頭頂に生えた「耳」であろう。
狐のような形をした耳は、驚くことなかれ本物の耳である。

そして腰のあたりに置いてあるクッション・・・に見えるモノ。
これもまた、彼女から生えたふさふさの尻尾である。

とある事情からこの家の家主に助けられ、人の姿を得た狐。
鶴の恩返しならぬ、狐の恩返しの真っ最中なのだ。

彼女の名は「」。
大切な人にもらった、大切な名である。




「さて、っと。」


戸棚にあるクッキーの缶を開け、お茶の間のテーブル・・・というか。
まさに『ちゃぶ台』にのせる。
このご時世見たままのちゃぶ台があるのもこの家くらいではないだろうか。

ちゃぶ台の準備を済ませると口に手を添えて家族を呼ぶ。
「みなさん、おやつですよー!」

「ん、ああ、今いくよ」

と、いかにも休日という感じのラフな格好でふすまを開けて入ってきた男が一人。
この男こそこの家の家主であり、狐の恩がえされ中の俗に言う「」。
そして他でもないである。

姓は佐門、名は「」。いたって普通の人間・・・のつもりだ。
実は無自覚に人外の存在、なんていう設定はいまのところ聞いていない。


「・・・、入っておいで。」

彼が後ろを振り向くと、先ほどのふすまをから覗く顔。
まさに『おそるおそる』という感じで部屋に入ってきた少女は
元来そういう顔なのか、いかにも気弱そうな表情だ。

「あ、はい・・・あの・・・。はいります・・・。」

褐色の肌にストレートの黒髪。そして浴衣のような赤い着物に黄色いリボン。
と同じく頭には獣の耳が生えているが、こちらは、なんというか、犬耳である。

名前は「」。
彼女もまた数奇な運命から人の姿を得た犬。
もとが捨て犬ゆえ気弱で臆病なのが気になるところが、まあ・・・そこが可愛いとも。

その性格を察してか、が小皿にクッキーを2、3枚を乗せて渡す。

「さあ、どうぞ、ちゃん。」
この二人の関係は親子というか、姉妹というか。そんな感じで
はたから見ていてとても微笑ましいものだ。

・・・と思っているとの前にも同じような皿が渡される。
「はい、だんな様もどうぞ。」

別にのための配慮というわけではなかったらしい。
そんな事を思っていると、は3、4枚目の小皿にもクッキーをのせる。

「スズのヤツは・・・またどこかに隠れてんのか?」

「またあの子は・・・三つ数えるうちにでておいでなさい!」

・・・まるでお母さんだ。
一応アイツ、よりもだいぶ年上なんだが・・・

スズ「お母さんか!・・・っていうか子供か!」


と、窓の外からひょい、と部屋に飛び込んでくる白髪の少女。
これがスズ
紺色の着物を身軽に着こなす彼女は一見すると忍者にも見える。
さすがは元・猫といったところである。


スズ「だいたい、あたしはあんたたちよりず〜っとお姉さんなんだからな!」

まあ、考え方によっては確かにこいつが一番の古株だけど・・・


「はい、スズちゃんの分ですよ。」
スズの前にクッキーが乗った小皿が差し出されるが、
当の彼女は、なにか言いたげな顔をしている。

スズ「・・・前にも言っただろ。あたしにだって野良のプライドってのがあるんだ。」


こいつ、朝昼晩しっかり食べておきながらまだ野良猫のつもりらしい。
前に指摘したら食客がどうのと逃げられたな。
おおかた今度は餌付けするな、とか意地を張るんだろう。

スズ「野良猫の誇りにかけて、クッキーはジャムつきの丸いヤツしか認めないっ!」


そっちかよ。
確かにクッキーの缶の真ん中あたりに入っているけど。
確かにアレうまいけど、ちょっとくどいんだよな。アレ。

「もー。あいかわらずわがままな子ですねー。
    ジャムつきはそのクッキーと交換ですよ。」


スズ「なっ・・・!手元に缶があるからって、ずるいぞ!」

何がずるいというのだ。
というか、そろそろの隣で『待て』しっぱなしのが不憫になってきたんだが。

「おあずけなしでもいいですけど、そのかわり今日食べる分、
    スズちゃんだけ明日のおやつは無しですからね。」

スズ「ぐぅうー・・・っ!
    わかった、わかった!今日は一枚でがまんするからぁ!」


重ねて思うが、どっちが年上なんだコレ。
あと、そろそろ『よし』って言ってやっていいかな。
ふるふる震えてて見るに堪えないし。


???「・・・ふふ、相変わらずにぎやかで楽しいのぅ、あの家は。」

と、電柱の上に立ってクッキーをかじる人影が、一人。
切れ長の赤い目に、ロングの黒髪が印象的な少女である。
???「人と獣の恋模様か・・・はたしてどうなるか。
    見てみたいと思わんか?皆の衆」

誰がいるわけでもない虚空に向かってそうつぶやくと、少女は霧のような黒い影に包まれ、カラスへと姿を変える。
そしてくわえたジャムつきクッキーを飲み込むと、どこへともなく飛び立った。

・・・なお、そのクッキーが缶から盗まれたもので、そのせいで
犯人探しのひと騒動があり、結果的にスズがやりこめられたことについては。


彼女のためにも、語られない日常の一コマということにしておこう。



読み切り:おわり


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