きつね の ねとまり

部屋にかかった時計に目をやると、ほどよく鋭角になった針が見える。
窓の外では近所の街灯が寿命を感じさせる点滅を続けていた。

「・・・もうこんな時間か・・・」

「助けた狐が女の子になって居候し始めた。
というきわめてエキセントリックな出来事があっただけあり
普段の休日以上に時間が進むのが早く、気づけばすでに夕食も片付いていた。




「・・・あのさ、えっと。狐さん。」
「だんな様、せっかく名前をもらったのです。
    ちゃんと名前で呼んでください。」


にっこりと笑って返されるとやりづらいのだが。

「じゃあ、。・・・その。
   お風呂って入るの?」


普通の狐は水浴びすらしなそうなのだが、目の前の狐は見るからに普通じゃないしな・・・。

「オフロ・・・ですか?もちろん知ってますよ!
    泡だらけになった後にお湯に入るアレですよね。」



だいぶ知識に偏りがある・・・というか目的が抜けた知識なのだが。
まあ、風呂を知っていることが分かっただけで安心した。・・・安心?

「せっかく人の姿になったのです、ぜひとも!」

風呂の目的と風呂場の使い方を聞くと、は神妙な顔つきになる。
狐といえどやはり女の子なのだろうか、それとも人化した影響なのか。
彼女は人間と同じく、体を清潔に保つことに関心があるらしい。

それではさっそく、といって服を着たまま浴室に入るを止めた
目の前で服を脱ぎ始めるを再び止めたのだった。



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そんなこんなで、すでに九時。そろそろ布団をしく時間だ。

この部屋は一間を物置にしているため
今いるこの居間が寝室も兼ねているのだが
困ったことに布団は一人用しかない。

狐といえど女の子と一緒に布団に入るわけにもいかないので
座布団と夏用の布団を出して使うことにした。
今の季節ならこれでも十分だろう。






(こんなことなら来客用の布団を用意しとくべきだったかな・・・)


・・・しかし別に誰か止まる予定もないしな。


男友達だったら雑魚寝でよかったんだが。



学生の頃は家に友達が泊まったこともあったが
社会人になってからは全然だな・・・


そんなもんか・・・










(・・・ん。なんだ、この感じ・・・は・・・)

ふわふわとした感覚の中で、が感じているのは
胸の中に納まる暖かさ。
そして鼻先にただよう、ふんわりとしたいい匂い。

(・・・まさか・・・)

一瞬にして事態を察すると、の目は急速に覚めていった。
なんともいえない焦りがを襲う。




「・・・・・・くぅ」

案の定、の胸に飛び込んでいた。
ご丁寧に正面を向いた状態で。

慌てて起こそうかと思ったのだが、いざこういう状況になってみると
なんと声をかけていいのか思いつかない。

そして、実際に女の子を抱きしめているとわかったとたん
余計に意識してしまうという無限ループだ、どうするんだこれ。

の顔に視線を落とすと、普段と変わらぬ・・・
いや、たぶん普段よりもさらに可愛らしい寝顔が迫っている。

・・・と、いうか。
動物ってのは違う環境では落ち着いて寝れないものじゃないんだろうか。
それとも、に心を許してくれた証なのだろうか。

いや、それはそれで早すぎるというか。

そもそも・・・





・・・




・・・






「・・・もうこんな時間か・・・」

昇る朝日と緩く開いた時計の針を見ながら、は空き部屋の整頓をする決意をしたのだった。

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